
大手ハウスメーカーの積水ハウスが都内の一等地の売買取引で地面師に騙され、63億円もの資金の回収が難しい状態であることを8月2日に公表し、大きな話題になりました。今回の事件は、地面師というプロの不動産詐欺集団が、印鑑証明書や身分証明書等の偽造、取引には間にダミー会社を挟むなど巧妙な手口であったといわれ、騙す相手も不動産の取引に慣れた大手ハウスメーカーというものでした。
大手企業の取引で金額も大きいことから耳目を集めましたが、不動産取引の世界では数多の詐欺または詐欺まがいの被害が起こっています。それでも、ほとんどは報道されず、話題にもならないまま、泣き寝入りをしている人がたくさんいるのです。
今でも原野商法は行われている?
土地の売買取引では、昭和の時代から“原野商法”といわれる、ほぼ無価値の土地をあたかも価値がある、あるいはこれから価値の上がる不動産のように見せかけて高値で売りさばく詐欺的商法があります。その手口は色々ありますが、豪華なパンフレットを用意する、価値のあるまったく別の土地を見せる、土地を区画整理したように分筆した公図などを用意するといった、“よく見せる”ことで買わせるのです。しかも、往々にして紹介される土地は、確認や調査が難しい場所にあり、かつ現地確認を容易にできない素人を狙って売るのです。
平成の今でもそのような被害に遭った方を見ることがあります。少し前の話になりますが、不動産投資をしたいと相談に来られた40代の会社員の方がいました。銀行融資を申し込んだ際、銀行から抵当権の付いた資産価値のほとんどない土地を所有しており、この土地購入のために組んだ融資が重荷で、その銀行では融資が出しにくいという回答がありました。最終的には、予定より金額を下げて融資は借りられたのですが、今回のポイントはこの問題となった土地です。
事情を聴くと、この方はもともと特殊な勤務形態であるため、数年前に自宅を購入する際、東京に通える自然豊かな郊外の土地を長野県に探していました。そして、これから開発される土地を安く購入できると、地元の不動産会社の担当者から話を持ち掛けられたそうです。紹介された現地を見たそうですが、もちろんその時点では舗装もされていない道路はあるものの、低木の茂る山林のようでした。事前に、「これから開発される土地」という説明を受け、担当者の「だからこそ安く買える」と言われて、「なるほど」と思ってしまったそうです。そして、現地に通じる道の途中には民家もあったことから、購入を決めました。その方は、土地取得の融資を取り付けるために銀行をあたりましたが、開発前の土地ということもあり銀行融資は受けられず、最終的に生命保険会社から土地と自身の生命保険を担保にして融資を受けて購入しました。