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早川書房、異端の出版社の正体…「たまたま」カズオ・イシグロ氏の版権独占の凄い経営

構成=長井雄一朗/ライター

――イシグロ文学もさることながら、同様に翻訳者である土屋政雄氏の文体も心を打たれました。

山口 編集者としても土屋氏の翻訳は楽しく読ませていただきました。非常に完成度の高い翻訳です。イシグロ文学を日本で支えているのは土屋氏の翻訳であると言っても過言ではないでしょう。

 原文の雰囲気を土屋氏が非常にうまく表現しました。『わたしを離さないで』では、世界中どこにでもある風景のように思える自然体の風景が描写されています。

 抑制の利いた言葉で、素晴らしい翻訳です。やはり、イシグロ文学については、読者からも翻訳は土屋氏にお願いしたいという声が多いです。

 イシグロ氏からは翻訳者のチョイスはありませんが、イシグロ氏の母親は日本人ですので、土屋氏の翻訳版を読んで、「大変素晴らしい翻訳です」との評価をくださいました。
もともと、産業翻訳を生業にされていましたが、文学翻訳の仕事がきて、独学で学び、文学翻訳の世界に入ったという珍しい経歴の持ち主です。イシグロ文学の言葉遣いは特に難しくはありませんが、ニュアンスを伝えるのが大変です。それを土屋氏は上手にこなしています。

 実はタイトルも土屋氏が決めています。本来、タイトルについては編集者が決定することが多いのですが、土屋氏指定のタイトルは作品にとてもマッチしますので、編集者としては仕事が楽になります。

――イシグロ氏とリチャード・セイラー教授がノーベル賞を獲り、版権も御社が持っています。御社のビジネススタイルについて教えてください。

山口 短期的に売れる作家さんよりも、長期的に売れる作家さんとのおつきあいが多いです。文学書や経済書でも長く売れる作家さんが、たまたま2人ノーベル賞を受賞したということです。ジャンルを極めている方、そういう方とのおつきあいを大切にしています。それが良かったのかなと思います。

 いきなり来年受賞される作家さんを狙うのは難しいので、長い間、おつきあいしていくなかで、結果的にノーベル賞を受賞したといえます。

――イシグロ氏の版権を得たのはいつ頃ですか。

山口 もともと、中央公論新社が版権を得たのですが、版権を譲渡するという話があり、そこで弊社の早川浩社長が直接交渉し、2001年から独占的に得ることになりました。

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