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荻原博子「家庭のお金のホントとウソ」

金正恩、詐欺師的交渉術でトランプに完全勝利…米韓軍事演習を中止させた巧妙な「仕掛け」

文=荻原博子/経済ジャーナリスト

 一方、北朝鮮にとっては、中国の懐に飛び込んで庇護を得られれば、アメリカに対する防壁となります。物理的にも、北朝鮮は原油の供給を中国に頼っているため、万が一中国を敵に回して原油の供給が止まれば、それだけで経済が干上がってしまい、アメリカとの交渉どころではなくなってしまいます。そのため、後顧の憂いをなくすためには、いの一番に中国の信任を取り付けることが必要だったわけです。

 しかも、訪中した時期が的確で、トランプが中国をターゲットに通商摩擦を仕掛け、「貿易戦争だってかまわない。勝つのは簡単だ」としていた最中でした。アメリカは通商拡大法232条や通商法301条をちらつかせ、「中国からの輸入品に25%もの追加関税をかける」と脅しをかけ、中国も負けじと応戦していたときです。そこで、すかさず金正恩は電撃訪問して中国の懐に飛び込み、自らの後ろ盾としています。

 一方で、ロシアとも交渉が進んでいて、事態が急変して中国からの原油供給が止まったとしても、ロシア経由で買えるようなルートをつくっています。そういう意味では、ウラジーミル・プーチン大統領も、陰で北朝鮮の後ろ盾になっているといえます。

「相手の立場を熟知」で米国の脅威を回避

「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の名言があります。これは、敵の情報と味方の情報を前もってしっかり把握しておけば、戦っても危ういことにはならないということです。

 中国への電撃訪問に次いで、金正恩が行ったのが板門店での南北首脳会談です。文在寅の両親は脱北者で、叔母などの親族はまだ北朝鮮におり、彼自身は南北融和を心より願っているようです。そのため、平昌オリンピックに北朝鮮の参加を呼びかけ、和平ムードを盛り上げました。その一方で、ニューヨーク・タイムズのインタビューでは「米韓関係は過度に一方的であってはならない」とアメリカを牽制するような発言もしています。

 この文在寅をうまく抱き込み、金正恩は4月27日に北朝鮮と韓国の軍事境界線上にある板門店で歴史的な会談を行いました。この会談では、金正恩は終始にこやかで温和な人柄をアピールしていましたが、目的は大きく2つ。まずは、「朝鮮半島の非核化を目指す」という韓国との共同宣言を出すこと。そして、もうひとつは、「朝鮮はひとつの国だ」と世界中にアピールすることです。

 なかでも、北朝鮮にとっては共同宣言で「朝鮮半島の非核化」を明文化することが重要でした。なぜなら、朝鮮半島を非核化するということは、北朝鮮が核を廃絶するだけでなく、韓国を守っている米軍の核の傘も同時に取り除かなくてはならないことを意味するからです。そして、それは米韓同盟の根幹となっている北朝鮮に対する抑止力を放棄させることにつながります。

荻原博子/経済ジャーナリスト

荻原博子/経済ジャーナリスト

大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。家計経済のパイオニアとして、経済の仕組みを生活に根ざして平易に解説して活躍中。著書多数。

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