12月6日の13時39分頃、ソフトバンクの携帯電話サービスで大規模な通信障害が起きた。筆者は同社携帯のユーザーではないが、ちょうどその頃、利用しているワイモバイルのポケットWi-Fiが突然「圏外」となり、機械の故障かと焦った。サポートセンターに何度電話してもつながらず、もしやと思って情報収集したところ、そういう状況だと判明。最初の頃は原因不明だったので、「もしや、またPayPay関係のエラーじゃないのか」と冗談交じりに言ったくらいだ。
この2日前の4日からスタートした「PayPay」の大型還元キャンペーンの初日には、アクセスが集中し決済できない状況になった、二重決済が行われた、などのトラブルを耳にしていたからだ。
もちろん、原因は別にあった。しかし、スマートフォン決済ができない状態になったのはユーザーにとっては同じことだ。キャッシュレス決済、特に店舗側の導入コストが安くすむことから「普及の起爆剤になるのでは」といわれたスマホ決済の脆弱性が、このタイミングであらわになったのは皮肉といえる。
とはいえ、PayPay祭りは始まった。ご存じの方も多いと思うが、ざっとおさらいすると、PayPayはソフトバンクとヤフーが共同出資してスタートしたスマホ決済アプリ。サービス開始は2018年10月からと、先行しているLINE PayやOrigami Pay、楽天ペイ、d払いなどに比べると後発だ。
しかし、決済アプリの陣地取り合戦はまだ決していない。そこで、一気にユーザー獲得を目指すべく「100億円あげちゃうキャンペーン」をぶち上げた。中身は、PayPayで支払えば決済金額の20%を還元するというもの。クレジットカードなら還元率1%程度、決済アプリでも5~10%のキャンペーンでしのぎを削るなかで20%というインパクトのある数字を提示したものだから、記者発表に参加していた筆者も驚いた。
さらに、40回に1回の確率で支払額の全額が還元されるキャンペーンも同時開催、なお、Yahoo!プレミアム会員は確率が20回に1回に、ソフトバンクとワイモバイルのスマホユーザーは確率が10回に1回にアップするという。人は“タダ”に弱い。こっちのインパクトも相当だ。
しかも、PayPayの周到なところは、キャンペーンに合わせてビックカメラ、ヤマダ電機、上新電機といった家電量販店での取り扱いをスタートしたところだ。同日からファミリーマートでのキャンペーンも始まったが、何せコンビニとは単価が違う。年末に家電購入を予定していた人だけでなく、クリスマス用におもちゃや美容家電などを狙っていた人にも恩恵がある。キャンペーン対象購入金額はひと月25万円までと高額なので、導入を決めた家電量販店にはかなりの恩恵があることだろう。
筆者もそのひとりで、予定していた家電購入をPayPayで試してみることにして、キャンペーンを大々的にPRしているビックカメラに向かった。
PayPay決済は意外と手間がかかる?
まず、PayPayでの支払いは、事前に残高をチャージしておく方法(銀行口座、Yahoo!JAPANカード)、Yahoo!マネーからの支払い、アプリ上で登録されたクレジットカードからの3つがある。高額の買い物にはカード決済を選ぶ人が多いだろう。ちなみに、登録できるのはVISA、Master、Yahoo!JAPANカード(JCB)となっている。
購入する価格に対し残高が足りない場合は、Yahoo!マネーからの支払いか、登録されたクレジットカードでの決済となる。Yahoo!マネーが未登録なら、カード決済だ。また、残高があったとしてもカード払いと併用はされないので、そのまま残る。つまり、残高が1000円分しかないが1万円の買い物をしたい場合では、足りない9000円分のみカード、ではなく、そっくり1万円がカード払いに回るのだ。
決済アプリには、店側がコードを読み取る方式と、客側が店舗のコードを読み取る方式の2種類があるが、ビックカメラでは後者だ。レジでの支払いは、まず客がビックカメラのQRコードをアプリのカメラで読み取り、そのあと支払金額を自分で入力し、「支払う」をタップ。その後、表示された決済番号を店員が確認すれば終了だ。なお、3万円以上の購入には本人確認書類が必要になるので忘れずに。
アプリ画面には決済した金額と還元されるポイントが表示されるが、実際のポイント付与は19年1月以降となる。正直、レジでの手間はかかるといっていい。おそらくビックカメラ側がかなりシミュレーションをしていると見え、対応はスムーズだったが、客側が戸惑う。しかも、高額の数字を自分で入力するため、これで桁を間違ったらどうなるのか、などと緊張した。混み合っていない時間帯に余裕を持って行うことをおすすめしたい。
キャンペーン効果でPayPayで決済する客はかなり多いらしく、店側の導入メリットは大きいと見た。また、情報番組での放送もずいぶん目にした。この調子では、19年3月を待たずに還元額の100億円が底をつきそうだ(※追記:本記事公開後間もなく、キャンペーン終了のリリースが発表された。還元額が上限の100億円相当に達したため、12月13日23時59分にキャンペーンを終了するとのことだ。開始からわずか10日間で使い切ったことになる)。
PayPayが大盤振る舞いをする理由
さて、ここからが本題だ。PayPayは、なぜここまで大盤振る舞いをするのか? ヒントはいくつかある。まず、20%還元のポイントについてだが、これはPayPayでの決済でしか使えない。ちなみに、19年2月から「Yahoo!ショッピング」「ヤフオク!」で、4月からは「LOHACO」などのネット通販でも使えるようになると発表されている。
さらに、4月からは「Yahoo!ショッピング」「ヤフオク!」「LOHACO」「Yahoo!JAPANカード」のキャンペーンで付与されていた期間固定TポイントがPayPay残高としての付与に変わる。
つまり、こういうことではないか。20%つけたポイントは、ぜひYahoo!でのお買い物に使ってくださいと。普段はアマゾンや楽天で買っている客がこっちでお金を使ってくれるのだから、大盤振る舞いしても惜しくはない。むろん、今回のキャンペーンでユーザーが増えれば、リアルの加盟店獲得に対しても大きな手土産になる。私たちが20%還元してもらった残高を抱えて加盟店を訪れるのだから。
この構図は何かに似ているなと思ったら、そう、楽天スーパーポイントだ。楽天グループのサービスや楽天カード、楽天Edyの決済で付与されたポイントは、再び楽天経済圏の中でグルグルと消費・還流される。決済アプリの楽天ペイは、楽天スーパーポイントでも支払える。そして、支払うごとにまたポイントがつく。ちなみに、Tポイントはヤフー自前のものではないため、楽天スーパーポイントに比べフレキシブルな活用ができづらかったが、PayPayというツールを手に入れた今はフェイズが変わっていくだろう。
たとえば、還元率は20%キャンペーンの後は0.5%に戻る予定だが、ソフトバンクユーザーやYahoo!JAPANカード保有者、そしてYahoo!プレミアム会員は還元率を上げるという方策も考えられる。
かたや楽天ペイはといえば、粛々と加盟店を増やしつつある。約1億IDもの楽天会員が潜在ユーザーだ。19年秋には第4の携帯キャリアとして参入予定だが、今はほとんどの取引がスマホで行われる時代だけに、モバイルユーザー向けにポイントサービスを手厚くして楽天グループのビジネスに囲い込むという青写真も描きやすくなる。
キャッシュレス決済アプリの選び方
むろん、決済アプリはこの2つだけではない。LINE Payもd払いも、すでに膨大な数の自社ユーザーを抱えている。結局のところは、
(1)使える店やサービスが自分の利用先と重なるか
(2)自分が貯めている(貯めやすい)ポイントはそのアプリ決済で使えるか
(3)アプリとしての使い勝手やクレジットカードとの相性(登録できないカードもあるので)はどうか
まずは、この3点から吟味すべきだと思う。
また、先に書いたような通信障害だけでなく、スマホを紛失したり故障したりということも起き得る。いざというときのセキュリティや対策もきちんと確認しておくべきだろう。
クレジットカードと決済アプリは似ている。キャンペーンに惹かれてあれもこれも使ってみるというのは、最初はいいが、どこかで絞らないと無駄が出る。特に、使っても使ってもポイントがつくという無限ループはやっかいだ。もし数十円分のポイントが残っていたとしても、どこかであきらめが必要になるだろう。そういう意味でも、むやみにあれこれ手を出さないことだ。ポイント消費のために無用なものを買うことほどバカバカしいことはないのだから。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
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