筆者は現在放送中の連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)を見ていますが、画期的な商品として開発された即席麺の取り上げ方に大きな違和感を覚えます。
ドラマは日清食品創業者の安藤百福夫妻と、同社製品の「チキンラーメン」や「カップヌードル」の開発を基につくられています。ドラマの中で、完成した即席麺を「栄養豊富な食品」だとアピールするセリフが再三出てきますが、実際には決して栄養満点な食品ではありません。
チキンラーメンが発売されたのは1958年(昭和33年)なので、当時の栄養学に照らし合わせれば、それなりに栄養成分が評価されるのは理解できますが、放送されているのは、当時とは比べ物にならないほど栄養学も進み、栄養と健康のかかわりもより具体的に解明されている現代です。今では、インスタント麺やカップ麺は、カロリーが高くても栄養価の低い、いわゆる「ジャンクフード」と認識されています。
文末にチキンラーメンの成分と原材料を示しましたが、同商品に限らずインスタント麺全般の栄養成分は、麺の炭水化物と脂質(揚げ油のパーム油)と塩分相当量が多いのが特徴で、ほかの栄養成分は決して多くなく、栄養バランスの良い食品ではありません。
NHKも公共放送のドラマでジャンクフードを取り上げるのはまずいと思ったのか、安全性や栄養満点などを必要以上に強調するセリフが目立ちます。筆者は、ここに違和感を抱くのです。
脚気(かっけ)が復活した背景にインスタント麺
ドラマのなかで「まんぷくラーメン」はビタミン類も豊富だと言っていましたが、実際には即席麺にビタミンB1などが添加されたのは1975年頃です。発売当初は、ビタミン類はほとんどなく、それが後に大問題となりました。
脚気はビタミンB1の欠乏を主な原因として心不全や神経障害が起こる病気で、原因が特定された1950年頃までは、年間に1〜2万人以上の死者を出していました。特に幼児の死亡率に占める割合は高く、幼児の死亡の半数は脚気が原因でした。
脚気の原因が特定され、ビタミンB1を含む「アリナミン」(武田薬品工業)などが普及し、戦後復興も進んで栄養状態も改善されたことから恐れる病ではなくなったのですが、その脚気が1970年代に若者の間での発症が相次いだのです。発病したのはコーラやインスタントラーメンばかり食べる偏食の激しい人たちで、大きな社会問題となりました。筆者も発病した人たちと同じ世代だったので、このニュースはよく覚えています。当時は我が家でも、インスタントラーメンを箱買いしており、おやつ代わりや夜食としてよく食べていました。ただ、母親から、栄養不足にならないため野菜を必ず入れるようにと口酸っぱく言われていたのは、こうした報道があったからでしょう。
根絶したはずの脚気が再発生した原因が、インスタントラーメン等の偏食にあることを受けて、食品メーカーはビタミンB1などを添加するようになったのです。その後は、インスタント麺を原因とする脚気はなくなりました。