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片山修のずだぶくろトップインタビュー 第17回 下義生氏(日野自動車社長)

日野自動車、絶え間ない挑戦…トラック自動運転隊列走行でドライバー不足の危機を救う

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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下義生(しも・よしお):日野自動車代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)。1959年生まれ。81年に早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、日野自動車入社。04年米国日野販売副社長、北米事業部長などを経て11年に執行役員。その後、常務役員、専務役員を経て16年にトヨタ自動車常務役員。17年6月から現職。

 

 自動車産業は100年に一度の大変革期にある。じつは影響を受けるのは、乗用車に限らず、商用車も同じである。むしろ変化は、バスやトラックといった商用車のほうが、乗用車より速く進むといわれている。

 日野自動車は、トヨタが50.1%を出資する連結子会社だ。その一方で、2018年4月、トヨタのライバル、フォルクスワーゲングループの商用車会社「トレイトン(旧VWトラック&バス)」と戦略的協力関係の構築に合意。さらに、トヨタ、マツダ、デンソーが出資して進めるEV(電気自動車)のプラットフォーム開発会社「EV C.A.スピリット」、トヨタとソフトバンクが共同出資するモビリティサービス新会社「MONETテクノロジーズ」にも参画するなど、国内商用車メーカーのなかでは新領域に積極的に進出している。

 日野は昨年10月、「Challenge2025(以下、2025)」とする長期ビジョンを打ち出した。少子高齢化社会を迎えて、人やモノにとってのモビリティの在り方が変わろうとしている。トラックやバスの運転手の高齢化を受けて、自動運転の導入など激しい変化の時代に、トラック、バスメーカーの日野はどこに軸足を置き、何を目指すのか。17年6月に日野自動車社長に就任した下義生氏に聞いた。

物流業界の効率向上に挑む

片山修(以下、片山) 日野自動車は19年3月期は増収増益と、足下の業績は好調です。グローバルの商用車市場をどう見ていますか。

下義生氏(以下、下) まだまだ成長産業だと思っています。まず、影響が大きいのは人口です。人が増えれば必ず物が移動する。その意味で、世界には、まだトラックが足りていないところが多いんです。

 さらに、物流のサービスがきめ細かくなるほど、冷蔵や冷凍などトラックの完成形は変化します。また、国内でここ数年来課題となっている、宅配など「ラストワンマイル」と呼ばれる分野のニーズも増えます。インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシアといったアジア諸国も、これからもっと伸びるでしょう。

片山 「2025」では、25年に年間販売台数30万台としています。年6パーセントの伸びが必要ですが、達成できますか。

下 台数にすると、毎年1万数千台ほど増えれば達成できる数字です。簡単ではありませんが、十分チャレンジできます。

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片山 現状、国内外の販売比率はどれくらいですか。

下 約20万台のうち、国内7万台、海外13万台です。30万台になったときには、国内5万5000台に対して、海外24万5000台と考えています。

 ただ、これは新車の販売台数ですね。保有台数は、国内もまだ増えると見込んでいます。国内全体の保有台数は減る可能性が高いですが、日野は物流業界を中心に需要が多い小型トラックを増やしています。というのは、物流業者さんは、なんでも中型トラックで担うスタイルから、全国に拠点を設け、拠点間は大型トラック、拠点から先の細かい配達は小型トラックというスタイルに変化してきており、小型トラックの需要が増えているんですね。

片山 物流業界では、ドライバー不足がいわれていますよね。

下 危機的状況だと思っています。長距離ドライバーも、宅配ドライバーも不足しています。対策として、物流業界は女性ドライバーや、普通免許で運転できる小型トラックを増加させています。われわれは、一人のドライバー、一台のトラックでたくさんの荷物を運ぶ、効率向上に取り組みます。

自動運転による隊列走行の現状と今後

片山 その一つが、自動運転による隊列走行ですか。

下 そうですね。隊列走行は、日野、いすず(「ず」の正式表記は踊り字)、三菱ふそう、UDトラックスのトラック4社に加え、経済産業省さんと国土交通省さんと共に実証実験を進めていて、すでに新東名をはじめとする高速道路で、累計3500キロメートルを走行しています。

片山 課題はなんですか。

下 一つは、隊列走行の車両間への、一般車両による割り込みですね。それから、何らかの要因で、車車間通信が途絶えてしまった場合、後続車がいかに安全行動をとるか。少なくとも停車するとか、路肩に寄って安全に停車する必要がありますね。現在、EDSS(ドライバー異常時対応システム)にも応用できる、安全に停車するための技術を開発中です。

片山 隊列走行の場合、車間距離はどれくらい取るんですか。

下 約30メートルです。理想は10メートルです。そうすると割り込みはなくなりますが、後続車のドライバーの視界は、ほぼ前の車の荷台だけになってしまって、ドライバーは怖くて乗っていられない。もちろん、前の車両がブレーキを踏むと、ほぼ同時に後続車もブレーキがかかるシステムを搭載しますので、停車しても車間は、10メートルのまま変わりませんけど。

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片山 後続車は有人でも、隊列走行の効果はあるんですか。

下 後続車のドライバーは、先頭車両ほど運転に集中する必要はありません。先頭車両が順次入れ替わることで、ずっと走行を続けることが可能となるかもしれません。スピードスケートの「チームパシュート」と同じ要領です。ドライバーのトイレの問題とか、細かい課題はありますが、基本的には走り続けられるところまできています。

片山 難題は、やはり割り込み対策ですね。

下 たとえば、午後11時から午前5時まで、新東名はトラックしか走らないなどの思い切った規制ができれば、一気に現実的になるでしょうね。

片山 専用レーンを設ける案が現実的だといわれますが、設けるとしたら、一番いいのはどのレーンですか。左側ですかね。

下 一番左の車線は、合流してくる車両や、サービスエリアに入る車両がいます。交通流量を勘案して、最も良い車線を専用レーンにするなどの、思い切った施策が必要ではないでしょうか。ただ、2車線の高速道路もありますからね……。

片山 地方は、片側二車線が多いですから、専用レーンをどこに設けるかは難しい課題ですね。

下 合流も難しいんですよ。大型トラックが3台並ぶとなると、仮に車間距離を20メートルとしても全長70メートル以上になります。例えば、アメリカの高速道路のように信号を設置する案もあります。

片山 それが、日本の高速道路になじむかどうか。

下 そうなんです。運送事業者の皆さまを含めて社会的な合意がないと、難しい。インフラとセットで整備が進めば、2020年代の前半には、3台が並ぶ後続有人隊列走行は実現すると思います。

片山 日本の隊列走行は、世界的に見るとどうなんですか、進んでいるんですか。

下 決して遅れていません。例えば、異なるメーカーが一緒に隊列走行の公道での実証をやったのは、日本が世界初です。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

※後編に続く

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片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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