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「年1万5千円」NHK受信料の存廃、国民的議論免れず…N国党への支持高まりで

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 さる3月13日、テレビを持っていなくて、ワンセグ付き携帯電話だけを持っている場合でもNHKとの契約義務があるという判断を、最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)は下した。NHKから契約を求められた、埼玉県朝霞市の市議会議員の大橋昌信氏が起こした、「ワンセグ付き携帯電話を所持しているだけでNHK受信料を払わらなくてはならないのか」の確認を求める民事訴訟の判決である。

 受信契約及び受信料に関して定めた放送法第64条の条文は以下の通りだ。協会とは、日本放送協会つまりNHKのことである。

「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であって、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない」

 ワンセグ付き携帯を持っていることが、条文に言う「設置」に当たるかどうかが争点になった。一審のさいたま地裁は「NOTTVなどマルチメディア放送を定義する放送法2条14号で『設置』と『携帯』が分けられていることから、ワンセグも『設置』とするNHKの主張を『文理解釈上、相当の無理がある』」として、2016年8月26日、「受信料を払う必要はない」とする判決を下した。NHKが控訴、東京高裁は「受信設備の設置には携行することも含まれる」として受信料を払う義務があるとする判決を下した。原告が上告したが、最高裁は上告棄却し、東京高裁の判決が確定したわけだ。

 この判決をどうとらえるか。上智大学文学部新聞学科の水島宏明教授から聞いた。

スクランブル放送

「かつては、NHKが視聴者の理解を得て行われる双方の対等な契約である、というような一般通念でずっと来ていました。それがこの10年くらいの間に、法律を盾にとって払わない人には強制的に裁判をして取り立てるという流れが出来ています。その方向を後押ししたんだなという理解をしました。NHKがすべての番組を放送と同時にインターネット配信できるように、今国会で放送法は改正される見通しです。そうすると放送を見るのはテレビ受像機だけではなくなるという、大きな流れがあるわけです。通信も5Gの時代になって、スマートフォンでフルセグが見られる時代になっていく。その時代に、これが設置なのかどうかという争い方はあるとは思いますけど、あまり意味がなくなってくるという気がします」

 実業家、プロデューサーである若新雄純氏は、インターネットテレビ番組『けやきヒルズ』(AbemaTV)で「NHKはお金を払わないと画面が映らないようにして、クレジットカードを登録して料金を払うようにすればいい」と発言して議論を呼んだ。テレビを持っているからといってNHKを見るとは限らない。ワンセグでも同様だ。受信料が話題に上るたびに、見る人だけが払う仕組みにすればいいという声は上がる。

 契約者以外は見られないスクランブル放送は、WOWOWやスターチャンネル、スカパー!が実施している。NHKは在外日本人向け有料テレビ放送である『NHKワールド・プレミアム』で実施している(1日5時間程度はノンスクランブル)。

「テレビだけだったら技術的に可能かもしれませんけど、ワンセグでは無理でしょう。インターネットでも見られるようになると、見ている人と見ていない人の峻別は不可能といっていいんじゃないでしょうか」

 2017年度のNHKの放送受信料の支払率は、全国値で79.7%。NHKの立場に立ってみれば、現状でそれだけの受信料が徴収できているのだから、煩雑な仕組みを設けることもないということになるだろう。

 スクランブルを導入しない理由を「広く視聴者に負担していただく受信料を財源とする公共放送として、特定の利益や視聴率に左右されず、社会生活の基本となる確かな情報や、豊かな文化を育む多様な番組を、いつでも、どこでも、誰にでも分けへだてなく提供する役割を担っています」とNHKは説明している。

 だが、中立的な立場の報道機関の必要性という観点に立てば、民放テレビ局も放送法で「公平な報道」を義務付けられている。

「ジャーナリズムの主要な役割に『権力の監視』があって、たとえば、“安倍首相、素晴らしい!”というような内容ばかり垂れ流す放送局があったら、それは報道ですか? という話になりますよね。安倍政権に近いとされるフジテレビであろうが日本テレビであろうが、露骨に安倍首相のヨイショをしてるわけではないです。私がいた日本テレビだって、南京虐殺の問題をドキュメントでやったりしています。それはいろいろ多様なんだと思います。

 逆に、安倍政権を批判する放送があったとして、それをもって中立公正じゃないといえるかというのも、非常に難しい議論になると思います。ただ、NHKの場合は視聴者から報道が偏ってると思われると、受信料を進んで払う人が少なくなるということもあるし、いろんな手続きが国会で承認されないといけないわけですから、民放以上にナーバスにならざるを得ないという構図があると思います」

「中立公正な報道」の難しさ

 昨年末、『安倍官邸vs.NHK』(文藝春秋)が刊行された。著者は森友学園問題を追っていた、当時NHK大阪放送局の司法担当キャップだった相澤冬樹氏。地を這うような取材で特ダネをつかんでも、その後には、森友学園と安倍官邸のつながりをなんとか薄めた放送にしようとする上司とのせめぎ合いが続いたことが書かれている。

「NHKの中で代々受け継がれてきた、報道の側が持っている意識があったわけですけど、それさえも忖度しちゃってダメだと言われたり、あるいは放送されないとか、そういうことが起きてしまっていたわけですよね。それはNHKという組織に対する信頼性が今非常に傷ついている状態だと思います。ニュース報道においては、政治部的な報道の仕方、社会部的な報道の仕方があります。

 政治部的には森友学園でいろんな刑事事件にもなっているわけですから、そのことが安倍政権の維持だとか、今後の政治動向にどういう影響を与えるのかというのが一つの論点です。社会部的には司法として詐欺事件なのか、それとも財務省の背任なのかという論点があるわけです。背任のほうは全然立件されてないじゃないかということで、検察審査会にもかかっているわけですけれども、立件はされない方向になっています。そこで相澤さんたちがやりつつあった報道というのは、結局詐欺の話ばっかりがクローズアップされている、それでいいのかっていう社会部的な正義でしょう。そこをちゃんと報道してないじゃないか、って思う記者たちがいるのは当然です。

 そこはNHKという組織の報道の内部の自由ですよね。トップが右行けば皆が右行くわけではなくて、それぞれの細かな自由が本来あるはずです。それは産経新聞だろうが読売新聞だろうが、あるわけですよ、個々の記者には。報道する価値のある情報で、裏付けがちゃんと取れていれば報道するというのが報道マンのセオリーです。でも、それをやらなかった。それはどうしてだって相澤さんは怒っているわけです。それは非常によくわかる話。少なくとも、そういうことをちゃんとやれるからNHKって信頼できる、となっていたと彼は思っているはずです。

 NHKだけが知っていて、これは間違いない事実なんだという話だったら、それは伝える。それは偏向でもなんでもなくて、考えるための材料を国民に提供するという、きわめて公共性の高い仕事です。中立か中立じゃないかっていう話は、割と意味がないんです。それぞれの記者なり制作者がどんな考え方を持っているかというのは、本当にバラバラですから。

 相澤さんの森友報道に介入した上司というのも、それぞれ思惑があるわけです。たとえばゆくゆくは会長になりたいと思っている報道局長がいたとしたら、安倍首相に都合の悪い報道は抑えておいたほうが覚えがめでたいかなっていう忖度の仕方もあるでしょう。単純ではないです。すべては安倍政権の思惑通りに、一元的にコントロールされているということではないと思います」

 あくまでも森友学園問題を追及しようとしていた相澤氏は、考査部への異動を告げられる。記者から外されたのだ。相澤氏はNHKを辞め、大阪日日新聞の記者となった。

「この種のものはわからないです。私も組織を辞めた人間なのでそうでしたけど、いろいろ言われるわけですよ。森友問題を追求しているから、組織にとっては癇に障るというか、ちょっと困った奴だ、やりすぎだよな、分をわきまえろよといって記者から外したかもしれない。ただ、それだけじゃない理由もおそらくあるでしょう。人事というのは、いろいろありますから。同期がどんどん管理職になっているなかで、彼は現場のデスクをやっていたわけで、それ自体が異例のことだったわけですよ。会社を辞めるときはいろんな事情があったり、いろんな思いがあったりするから、単純ではないと思います」

(文=深笛義也/ライター)

BusinessJournal編集部

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