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今、20~30代男女が殺到する「東京おでんラブストーリー」、行ってわかった“最大の難点”

文=藤野ゆり/清談社

「おでん」といえば、日本の冬の味覚の代表格だ。本来なら、12月から2月頃までの冷え込む時期にこそ楽しみたいグルメである。ところが、夏の間も、おでんを売りにするレトロな居酒屋が若い男女の間で注目を集めている。ただし、彼らの目当てはおでんそのものというより、「異性との出会い」だ。

東京おでんラブストーリー」は、都内きってのおしゃれエリア・恵比寿に昨年オープンした出会いの新名所として知られる。コンセプトは“ノスタルジックな昭和スタイルの出会いの場”。相席系居酒屋やスタンディングバー、銀座コリドー街や同じ恵比寿の恵比寿横丁と、男女の出会いスポットは数多いが、その舞台がおでん屋というのはかなり珍しい。

 いったい、どんな店なのだろうか。本当に異性と出会えるのか。猛暑が続いた8月の金曜日、20代女子である筆者が実際に東京おでんラブストーリーを訪れてきた。

「恵比寿横丁はもう飽きちゃった」

 東京おでんラブストーリーは、恵比寿駅西口からわずか徒歩1分、アトレ恵比寿裏の雑居ビルの中にある。出会えるおでん屋というフレコミだが、相席系居酒屋のように女性無料でもなければ、席のチェンジシステムがあるわけでもない。たまたま隣に座った異性と意気投合し、1杯おごったり会話を弾ませたりする。そんな自然な出会いを演出する場所だ。

 おそらく、その目新しさがウケたのだろう。オープン直後から20~30代の男女の間で話題になり、SNSで拡散され、連日満席状態となる賑わいを見せているという。

 事実、午後7時ごろに店を訪れると、仕事終わりらしき20代のサラリーマンと同年代の女性たちが店前に列をつくり、中に入ることもできない。店のすぐ横には、会員数400万人を誇る最大級のマッチングアプリ「タップル」が運営するスタンディングバー「tapple Bar(タップルバー)」が並んでいるのだが、こちらをしのぐ人気ぶりなのだ。

今、20~30代男女が殺到する「東京おでんラブストーリー」、行ってわかった最大の難点の画像1

 しかし、「何時頃空きそうですか?」と店員に聞いても、「時間制じゃないので、お客さんによります」とそっけない。そこで、午後9時過ぎに再び店に行くと、タイミングよく席が空いた。中に入ると、評判通り20~30代の男女ばかりで盛り上がっている。

 約20坪、40席の店内は、古いラジカセやミシンが飾られたレトロな雰囲気で、リヤカーを改造したおでん屋台が3台ある。その周りには、スツールと呼ぶのがためらわれるほど素朴で質素な食堂椅子。店名でわかるように、目玉はこのおでん屋台だ。ひとつの屋台を客がぐるりと囲むように座り、隣の異性グループと会話を楽しんでもらう仕掛けである。今、20~30代男女が殺到する「東京おでんラブストーリー」、行ってわかった最大の難点の画像2

 もっとも、男女比を考慮して案内しているわけではないようで、よく見ると女性グループばかりの屋台もあった。一方、男女のグループが隣同士になった屋台では、「どんなお仕事されてるんですか?」「何歳に見えます?」といった会話が交わされている。

 友人と2人で店を訪れていた26歳の女性は「恵比寿横丁はもう飽きちゃったんで……」と話す。「たまたま入った居酒屋で、自然といい男と出会う。そんな感じで彼氏を見つけたいなと思って」。

 また、別の28歳の女性は「相席居酒屋は男性におごってもらえるのはうれしいけど、女性は無料ってことで、結局はおごってもらった引け目から2軒目に付き合ったり、無理やり会話したりしなくちゃいけないのが面倒くさい」と話してくれた。

 確かに、一時期繁華街に乱立していた「相席屋」をはじめとする相席系居酒屋は「女性は無料で飲み食べ放題」という点が人気となり、当初は女性客が3時間待ちになるほど行列をつくっていたが、今では当時が嘘のように閑古鳥が鳴いている。

 その点、東京おでんラブストーリーは男女関係なく客ごとに料金を支払うので、一般の居酒屋と変わらない。おでん屋台を通じて自然と男女が会話するのがミソだ。

出会うためには積極性が必要?

 しかし、いくつか気になる点もあった。そのひとつは目玉となっているおでんだ。

 同店では、屋台の中心に置かれた業務用の大きなおでん鍋の中から、セルフで好きなものを取り、食べた数を自己申告で用紙に記入していく。メニューは「たまご」「大根」「はんぺん」「つみれ」「餅巾着」などの定番から「いか」「あらびきフランク」などが揃い、1個150円から300円。2人でドリンク1杯ずつ飲み、おでんを5つ食べても、会計は2500円程度で済む。男性にすれば、女性の分も支払わされる相席系居酒屋に比べて割安感がある。会計時に隣の女性に対していい格好をしなければ、男性が女性の分をおごる必要はない。

 問題は、肝心のおでんが熱々でなく、なんともぬるかったことだ。店内はキンキンに冷房が効いているのでそのせいかもしれないし、真夏ということでつゆの温度をあえて下げているのかもしれない。とはいえ、熱くないおでんでは魅力が半減してしまうのは確かだ。

 さらに、最大の売りである「出会い」にも難点がある。前述したように、この店は相席系居酒屋のように男女の出会いがシステム化されていない。「出会いの場」と言いつつ、男女が隣同士になるように店側がオペレーションしているわけではないので、実際に出会うためには運が必要となり、しかも相応の積極性が求められる。

 実際、観察していると、男性のグループが女性に話しかけたものの、盛り上がることなく会話が終わり、その後は普通の居酒屋のように別々に飲むという光景がよく見られた。女性の飲食代無料や店側のサポートといったシステムがないからこそ自然に出会えるかたちになるわけだが、その分出会い自体のハードルが上がってしまうのである。

 同店の運営元は、鎌倉市や富士市におしゃれカフェやゲストハウスを展開するスマートという企業だ。展開するほかの店舗を見る限り、相席系居酒屋のように男女の出会いにこだわっているわけではなさそうだが、ナンパスポットとして大繁盛する恵比寿横丁の例を見て「恵比寿には出会いを求めるニーズがある」と考えてオープンさせたのだという。

 しかし、そのわりに出会いの場として中途半端になっている点は否めない。婚活パーティーや街コンの相場は1回につき3000円前後なので、東京おでんラブストーリーのコスパは悪くないのだが、「なんとなく入ったおでん屋台で隣に座った異性と会話が弾み、付き合うことになった」というドラマを演出するには、もう一工夫が必要かもしれない。

 何よりも、ぬるいおでんを真夏に食べるのではなく、熱々のおでんを寒い冬に食べたい。出会い以前に、それがこの店で一番感じたことだった。

(文=藤野ゆり/清談社)

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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