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なぜ腕にマグネットを埋める人が増殖しているのか?サイボーグ化している人間

構成:大野和基/ジャーナリスト
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カーラ・プラトーニ氏

 現代の科学技術の進歩は目まぐるしいほどだ。10年前には空想の世界でしかなかった技術が現実になっているケースも少なくない。実は人間の身体を「サイボーグ」のように強化する研究が進んでいるという。

 今までにも、医療の一環として機械を人間の体内に埋め込む技術はあった。だが、治療ではなく、五感を強化あるいは新たな知覚を得るために、自らの身体に装置を進んで埋め込む人たちが現れた。彼らは“バイオハッカー”と呼ばれる。

 綿密な取材を基にバイオテクノロジーの現状をリアルに描いた『バイオハッキング -テクノロジーで知覚を拡張する-』が話題を呼んでいる。本書の著者で科学ジャーナリストのカーラ・プラトーニ氏に、国際ジャーナリストの大野和基氏が、バイオハッキング技術が人間にもたらす未来などについて話を聞いた。

人間の“サイボーグ化”が静かに進行

――本書を読んだとき、子供の頃に「頭の後ろにも目があったらいいな」と考えていたことを思い出しました。振り向かなくても後ろが見えるからです。いわば“視覚の強化”です。プラトーニさんが人体改造をするバイオハッキングに関心を持ったきっかけはなんですか?

カーラ・プラトーニ氏(以下、プラトーニ) 私はアメリカ・ベイエリアのオークランドという町に住んでいます。シリコンバレーにも非常に近いです。ここで20年以上、記者をやっていますが、みんな絶えずコンピュータを身につけていることに気づきました。日々身につけているテクノロジーはたくさんありますが、我々は本当に自分をサイボーグにしていると思い始めました。今日歩いた歩数もわかります。夜どれくらい熟睡したかもわかります。バイオハッキングが本当に人間としての能力を変えているという事実に気がついたことがきっかけです。

――この地域はアメリカの他地域よりもバイオハッキングに関心がある人が多いと思いますか。

プラトーニ そうですね。ただ、自分ではわからないかもしれませんが、世界中の人がサイボーグになっていると思います。バイオハッカーたちにインタビューをしていると、手の中にマグネットを埋め込むことをよく勧められますが、「私は100%純粋な人間ですから、マグネットを手に埋め込みたくありません」と断ります。

 そうすると、彼らはさらに挑戦的に「眼鏡をかけている人は、視力の強化をすでにしているわけでしょ。靴を履いているでしょ。あなたは靴を履いて生まれてきたわけではない。靴は足を守るために人間がつくったテクノロジーだ。マグネットを埋め込むのも、その延長線だよ」と言われます。考えてみると、世界中ほとんどの人はある意味でサイボーグであり、バイオハッカーです。

――しかし、たとえば眼鏡と、手に埋め込むマグネットなど“スーパーパワー”と呼ばれるようなものの間に、明確な境界線はあるのでしょうか。

プラトーニ 微妙な境界線があります。眼鏡やペースメーカーや埋め込み型補聴器などは古いテクノロジーなので、我々はすでに慣れています。手にマグネットを入れるのと同じようなレベルで新奇であるとは思いません。

 もうひとつは、簡単に体から取り外しができるテクノロジーと永久埋め込み型のテクノロジーとは、大きな違いがあると実感します。眼鏡は簡単に取り外しができるし、スマホも簡単にポケットから出せます。しかし、絶えず体にくっついていることは間違いありません。スマホをなくすと何か奪われたような感じがすると思います。つまり、すでにスマホは“自分たちの能力の欠けた部分”を補う存在になったのです。

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