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なぜ腕にマグネットを埋める人が増殖しているのか?サイボーグ化している人間

構成:大野和基/ジャーナリスト

 一方、医師にしてみれば、「危害を与えない」という“ヒポクラテスの誓い”を立てているので、健康を悪化させる可能性がある手術や埋め込みをすることをとても嫌がります。もちろん、必要のない医療行為に対しては、保険会社はお金を払いません。

 このように、バイオハッカーと、医学研究の一環として行われる種類のテクノロジーとの間には、大きな乖離があります。

 たとえば、本書の中に網膜移植をした男性について書いた章がありますが、彼はすでに視力を失った人だけになされる臨床試験に参加していました。もともと視力が良くて、さらにその視力を強化したいと思っている人は参加できません。マス・マーケット用に開発されているのは、スマートウォッチ、VR眼鏡、VRヘッドセットのように、医学的必要ではなく、ゲームやエンターテインメント用に使われるものです。

――あなた自身は体内に埋め込むのはいやですか?

プラトーニ 私には向いていませんね(笑い)。

バイオハッキングのデメリット

――あなたがもっとも関心を持ったものはどれですか?

プラトーニ 指先や腕や手にマグネットを埋め込んでいる人が多かったですが、大した手術ではありません。失敗のリスクも高くありません。それがもっとも私にとって関心が高いものです。そのマグネットをつけていると、コンピュータのドライブや冷蔵庫などの電気製品のモーターが動いているかどうかなどが簡単にわかるそうです。

 蝶やウミガメが持っている磁気感覚と同じでないことは確かですが、マグネットは環境に応じて実際に反応します。指にプレッシャーを加え、そのプレッシャーが脳に伝わり、信号に変えます。つまり、マグネットを埋め込んでいる人は、埋め込んでいない人が持っていない情報を獲得することになります。それが興味深いです。しかし、あらためて自分がサイボーグ化することに抵抗感を覚えました。実際に本書を執筆したあと、ピアスや腕時計など、身に着けているものをすべて外してしまいました。

――バイオハッカーたちとはまったく逆の流れですね。

プラトーニ そうです。ただ、バイオハッカーたちに「あなたはすでに多くの点でサイボーグである」と言われて、納得しました。たとえば、私は予防接種を受けています。それにより、昔は致命的であった、はしかや天然痘のような病気にかかりません。また、眼鏡を毎日かけていますが、これは視界の強化器具です。

 さらに、避妊行為も、ある意味でバイオハッキングと同じです。受胎・生殖を自然に任せるのではなく、コントロールするわけですから。携帯電話もずっと持ち歩いていますが、監視の面を知れば知るほど、時には自宅の引き出しにしまうべきかもしれないと思います。

――位置情報もわかりますからね。

プラトーニ そうです。ずっと監視されているようなものです。私たちは、自分の位置情報を提供するデバイスを持ち歩くことに慣れすぎています。これはとてもサイボーグ的です。地球の反対側にいても話すことができるし、スマホでネットにつなげると、すぐに情報を得ることができます。これも非常にサイボーグ的です。多くの人は慣れすぎて、これが特別なことであるとは思っていませんが、日々、奇跡的なことが起きているといえます。

――今では、ボーイフレンドやガールフレンドの脈拍をスマホの向こうで感じることもできますね。スマホで匂いを送ることもできるようになるのでしょうか。

プラトーニ 触れる感覚をスマホで送るほうが、匂いを送るよりは少し簡単です。デバイスを振動させればいいからです。振動させることは遠距離からでも簡単です。匂いをスマホで送ることは本当に難しいですね。匂いの化学物質を長距離で送ることはできないからです。スマホにその匂いを発する付属品をつける必要があり、極めて困難です。

バイオハッキングの未来

――どんなテクノロジーでも「諸刃の剣」と呼べないものはないでしょう。体内に埋め込んだり装着したりして、ある能力を強化するバイオハッキングは、ある意味で自然の進化に反するものであり、人工的進化と呼ぶことができるかもしれません。本書に出てくるバイオハッキング・テクノロジーで、少し行き過ぎではないかと思われるものはありますか?

プラトーニ 興味深い質問です。本書に書いたものでは、まだ行き過ぎと思われるものはありませんが、そうなりそうな兆候があるものがあります。「聴覚」の章で、「再構成」というプロセスについて書きました。これは、fMRI(磁気共鳴機能画像法)のスキャナーに人を入れ、その人が見たり聞いたりしたことを再現しようとするものです。それは、人の心を読む研究といえますが、正確にいえば基本的には、その人が心の中で考えていることや言葉を理解しようとするものです。意義深い研究ではありますが、行き過ぎた監視や、心のプライバシーを侵害することなど、多くの問題点を含んでいます。

 このテクノロジーはほとんどの場合、体を動かせない人や話すことができない人を助けるために開発されています。たとえば、脳卒中などで体が麻痺して話せなくなった場合、その人の心の中の会話を読むことが可能であるか、といった研究です。心の中の会話というのは、「今日はいているズボンは快適ではない」というような具体的なものです。脳卒中になった人が、頭で意図的に文章をつくり、それをコンピュータが読み取ることで、コミュニケーションをとれるようになるかもしれません。

 しかし、もしこれが可能になれば、100年先には非常に悪意のある方法で使われる恐れもあります。ですから、このテクノロジーがもっとも恐ろしい未来をもたらす可能性を持っていると思いました。

――取材した感じでは、女性よりも男性のほうがバイオハッカーは多いですか。

プラトーニ そうです。私はできるだけ女性を取材しようとしましたが、バイオハッカーは、はるかに男性のほうが多かったです。しかし、大学の研究室で研究している科学者は多様で、女性も多くいました。

 たとえば、「触覚」の章で、ロボットを使って患者に手術を施す外科医に取材していますが、その外科医は女性でした。ロボットのシステム・デザインにかかわっているメカニカル・エンジニアのひとりも女性でした。大学院生が研究しているラボの多くには女性がいました。

「嗅覚」の章では、アルツハイマー病の患者に記憶を蘇らせようと香水を使っている話を書きましたが、その計画は化粧品業界にいる女性や過去に化粧品業界にいた女性によって進められています。五感や知覚の分野では、間違いなく女性が活躍しています。しかし、バイオハッカーでは、女性はまだ少数派です。

――最後に、本書を出したあと、読者の反応はいかがでしたか。

プラトーニ もっともおかしな反応は、ある人が「私は人体改造は絶対にしません。私はサイボーグではありません。このアイデアは現実離れしている」と批判した後で、「自分が人工股関節を入れているのを思い出した」と言っていることでした。人は自分がすでにサイボーグになっていることを忘れていて、聞かれると突然、思い出すのです。

――人工股関節に慣れてしまっているからですね。

プラトーニ まさにその通りです。アメリカでプロモーション・ツアーをしたときに、みんなに聞かれたのは、「将来、人間の体がどのようになっているか」についてです。

 本書でも書きましたが、人体改造は「真の進化」とは異なります。「真の進化」は親の体に改変を加えると、それが子どもに遺伝する可能性があることを意味します。本書で言及している改造は、次世代には遺伝しません。たとえば、私がロボットの腕や新しい目を持っていたとしても、私の子どもがそれを持つことはありません。しかし、遺伝子操作は子孫にも影響を与えかねません。それはバイオハッキングとまったく違います。

――ありがとうございました。

(構成:大野和基/ジャーナリスト)

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