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なぜ腕にマグネットを埋める人が増殖しているのか?サイボーグ化している人間

構成:大野和基/ジャーナリスト

――AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を含めて、本書執筆のために取材したバイオハッキング・テクノロジーのなかで、もっとも興味をかきたてられたものはどれですか?

プラトーニ VRですね。実は、VRやARの研究者たちの間で大きな論争になっていることがあります。それは、コンピュータ化された経験が人間を完全に包み込み、まるでその中にいるようにするのがいいのか、あるいはAR眼鏡のように、現実の世界にコンピュータ化された世界が上乗せされた状態で、物体を触ったり、会話ができるというように、相互に作用する関係のほうがいいのかということです。

 個人的には、まったく新しい世界に連れて行かれて、時にはまったく違う体になって、映画やすばらしい本を読んだときに経験するような、“心を奪われた状態”になれるテクノロジーが好きです。VRは、リアルではないけれども、自分をその幻想の世界に進んで委ねてしまいました。それがもっとも興味をかきたてられた経験です。

バイオハッキングのメリット

――本書の中に、VRを使って兵士のPTSD(心的外傷後ストレス障害)を治療する話が出てきます。仮想世界で経験したことが現実の世界にプラスに影響するわけですから、これは明らかに、強化されたテクノロジーのプラスになる面です。これについて、もう少し詳しく説明してください。

プラトーニ PTSDの治療については、多くの研究者が研究していますが、特にその効果がどれくらい続くのかを調査しています。短期的に効果があるだけなのか、重度のPTSD患者から症状を取り除けるほど長く続く効果があるのかという点が注目されています。

 私自身が参加したのは、短期的な効果があるかどうかを調べる実験です。VR内で自分のアバター(分身)がワークアウト(筋トレ)しているのを見ると、その影響で実生活でもワークアウトするようになるかというものです。

 また、顔写真を撮って、私が70代になったらどんな顔になるかを見る実験にも参加しました。これはとてもおもしろかったです。髪の毛が半分になり、醜い顔になっていました。この実験の目的は、高齢者になったときのために今、お金を貯めるようになるかなど、将来像が今やることに対してどのように影響するかを調査することです。

――バイオハッキングと言っても、マグネットのように体に埋め込むものもあれば、眼鏡のように取り外しができるものもあります。動物には人間が感知できる範囲を超えたセンサーがあります。たとえば、私はスマトラ地震の現地取材に行きましたが、地震が起きる前に象は足につけられていた鎖を切って山の上に逃げたそうです。それと同じようなセンサーが人間にもあれば、地震が多い日本に住んでいる私としては少し安心です。あなたがこの本の執筆のためにインタビューしたバイオハッカーは、埋め込み式、取り外し式、どちらのツールを使っているケースが多かったのでしょうか。

プラトーニ ほとんどの場合、取り外し式です。その理由は、障害か何かがあって、医師が最後の手段として埋め込み式を使うケース以外は、体内に埋め込むというのは医学的にリスクがあるからです。

 しかし、私が取材したバイオハッカーたちは、これについて非常に憤慨して反対意見を述べていました。義肢をつけるために、どうして腕や脚をなくさないといけないのか、というのが彼らの言い分です。つまり、第三の腕や脚をつけられないのはおかしいというのです。難聴にならない限り聴力を強化する器具をつけたらいけないのはおかしい。視力が落ちない限り視力を強化する器具をつけたらいけないのはおかしい、と彼らは言います。

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