
5人に1人が精神疾患にかかっているともいわれる現代日本。仕事や人間関係のストレスから鬱症状になる人も少なくない。多くの企業がメンタルヘルスケアに取り組み、ストレスチェックを実施するなど社員の精神衛生の向上に努めている。
筆者が働く医療業界でも、鬱が原因で休職に追い込まれたというケースもある。しかしながら鬱の診断は、医師によっては非常に曖昧なケースもあるようだ。実際に医師の診断を疑いたくなるような経験をした2人の男性に話を聞いた。
薬を捨てるという選択
ジャーナリストのA氏(仮名、52歳)は40歳の頃、仕事に打ち込むもうまくいかず、やがて何事にも気力が湧かなくなった。不眠や食欲不振などで苦しい日々が続き悩んだあげく、精神科を受診した。
「初めて会った医師から、わずか数分の診察で告げられたのは『鬱』でした。睡眠薬と抗うつ剤を飲むように言われました」(A氏)
しかし、医師の診察に疑問を抱いたA氏は友人に相談したところ、「向精神薬は怖い薬だ。一度飲み始めたらやめられなくなって、副作用でもっと症状が悪くなることだってある。普段接していて、Aさんは精神疾患じゃないと思うし、飲んじゃダメだよ」と、強く忠告された。
A氏は友人の忠告に従い、医師に処方された薬はそのままゴミ箱へ捨てた。現在は鬱を克服し、多くのメディアでも活躍するA氏は当時を振り返り、「医師には鬱と診断されましたが、単に職場の環境が合わずストレスからネガティブになっていただけ」だと語り、合わない環境で無理をするなかで、心が疲れた結果だと分析する。
「その会社で役立っていないとの思いが強くなり、さらに世の中に役立っていないと思うようになっていき、鬱傾向になったと思います」
その後、転職したA氏は自信を取り戻した。
「転職し、あるラジオの番組を担当したのですが、ラジオのリスナーの方から感謝のメッセージを頂き、自分も人のために役立つことができると思えたのも鬱傾向を克服するきっかけとなり、薬は必要ありませんでした」
A氏のように、自身の存在価値を見いだせない環境にいれば、人は容易に心身共に活気を失う。A氏を鬱と診断した医師の“誤診”は、まれなケースだと思いたいが、実際はそうでもないようだ。A氏とは対照的に、薬によって症状が悪化した経験を持つ人もいる。
“3分診療”で患者の心に向き合えるのか

経営コンサルティング会社の株式会社ワンズベスト(http://ones-best.com/)代表取締役・根本晴人氏は、過去に鬱と診断された経験がある。初診で鬱と診断されたのだが、医師が処方した薬はナルコレプシーの治療薬「リタリン」であった。ナルコレプシーとは、日中はもちろん夜間でも通常の活動時間に強い眠気に襲われ眠り込んでしまう病気である。単なる眠気とは異なり、人との会話中にも寝入ってしまうなど日常生活に支障をきたす睡眠障害である。根本氏にそういった睡眠障害があったのだろうか。