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平泉、富士山…車の“ご当地ナンバー”乱立し過ぎで埋没、自治体間で不毛な紛争も

文=小川裕夫/フリーランスライター
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「Getty Images」より

 2020年に17個の“ご当地ナンバー”を新設すると、国土交通省が発表した。自動車のナンバープレートは運輸支局のある地域名・都市名を使用するのが通例だが、例外もある。たとえば、愛知県の「尾張小牧」ナンバーは1979年に交付を開始した。尾張小牧ナンバーは「漢字4文字」「合成地名」という斬新なナンバーとして話題になったが、こうしたナンバーが生まれた背景には、複雑に絡み合う自治体間のプライド合戦がある。

 愛知県は名古屋ナンバーのみしかなかったが、自動車の登録台数が飽和状態になったことを受けて三河ナンバーが創設された。しかし、息つく暇もなく再び名古屋ナンバーが枯渇する。そこで、新たに小牧市に自動車検査登録事務所が開設された。この時、その所在地である小牧ナンバーが創設されることになったが、周辺の自治体が反発。名古屋市のベッドタウンでもある一宮市やニュータウンとして人口が増加していた春日井市が、小牧ナンバーを許容しなかった。すったもんだの末、「尾張小牧」という珍妙なナンバーが誕生する。

 この騒動が忘れかけられた94年、今度は神奈川県に湘南ナンバーが新設される。それまで相模ナンバーのエリアだった平塚市・藤沢市・小田原市・茅ヶ崎市などは湘南ナンバーに切り替わった。「湘南」は自治体名ではないため、これも変則的なナンバーといえるが、「尾張小牧」の時とは異なり、響きや字面がかっこよく映ったことから逆に人気を得た。

 こうした自治体間の紛争の原因になったり、逆に地域のブランド化の一助になったりするナンバープレートをめぐり、多くの自治体は「わが町の名前をつけた自動車を走らせることで、自治体のPRにつながる」と主張するようになった。そして、国土交通省にご当地ナンバーの創設を要望した。

国交省、容認の姿勢に切り替え

 当初、国交省は「ナンバープレートが乱立することは、事務作業を増やすだけでメリットはない」とし、ご当地ナンバーの導入には消極的だった。しかし、自治体が熱心に働きかけたことで国交省は態度を軟化。2006年にはナンバープレートの規制を緩和し、ご当地ナンバーが創設される。当時の様子を国交省の職員は、こう話す。

「自動車のナンバープレートに自分たちの自治体名をつけたところで、そんなに簡単にブランド化するだろうかと懐疑的な声が多かったのは事実です。しかし、自治体名ではない湘南ナンバーを新設した手前、ご当地ナンバーを認めないわけにもいかなくなり、少しずつ容認する空気が広がっていったのです」

 こうして、18の自治体がご当地ナンバーを申請。宮城ナンバーから仙台ナンバーが、石川ナンバーから金沢ナンバーなどが独立を果たしていった。

 一方、中尊寺などの世界遺産でも知られる観光地・平泉はご当地ナンバーを申請したものの、登録台数が少ないことを理由に涙を飲んだ。また、富士山ナンバーは静岡県・山梨県が協力して申請したが、県をまたいだナンバーは前例がないとして却下されている。それでも地元自治体は諦めず、平泉ナンバーも富士山ナンバーも再挑戦して、見事にご当地ナンバーを勝ち取っている。ある静岡県庁職員はこう胸を張る。

「富士山ナンバーが決まった時は、県全体が歓喜に包まれました。静岡県は、それこそ空港の愛称にも富士山の名前を冠しているぐらいですから、富士山ナンバーはあって当然です。そして13年に富士山が世界遺産に認定されました。これらは、静岡県が実現に全力を注いだから達成できたことだと思います」

地域活性化や観光振興の効果に疑問も

 静岡県の例からも、ご当地ナンバーに地域活性化や観光振興の効果を見いだす風潮がある。そのため、ほかの自治体でもご当地ナンバーを希望する動きが強まった。そして、今回の決定で新たに17個のご当地ナンバーが20年に誕生する。以前に却下された奈良県橿原市などが中心となって実現を目指した「飛鳥ナンバー」がリベンジを果たした。そうした吉報がもたらされた自治体もあるが、ご当地ナンバーが増えすぎたことを心配する声も出始めている。

「当初ほどの熱気はなく、どちらかというと『あそこの市がナンバープレートになっているなら、わが市も』という横並び意識によるものが多いように思います。絵柄入りナンバープレートも地域や都市に親しみを持てるという発想から導入されましたが、これも視認性の観点から問題がある」(ある地方自治体職員)

 また、ある東京23区の職員もこんな感想を口にする。

「東京にもご当地ナンバーが続々と生まれていますが、東京の自治体名をつけたナンバープレートに果たして地域活性化や観光振興といった効果があるのでしょうか。ナンバープレートを創設するよりも、外国人観光客を取り込むための多言語化やキャッシュレス化に取り組むほうが、よっぽど観光振興の効果は高いように思います」

 ご当地ナンバーが誕生してから15年が経過しようとしている。人口減少が加速するなか、地方は生き残りに必死で、少しでも自治体PRになるなら何にでも飛びつく。ご当地ナンバーもそのひとつといえるが、それが地方振興にどれほど寄与するのかは未知数だ。逆にナンバーが乱立することで共倒れになったり、無用なハレーションを生んで自治体間の関係が険悪になる可能性もある。

 ご当地ナンバーは、本当に地方の救世主といえるのか。

(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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