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木下隆之「クルマ激辛定食」

ルノーの「トゥインゴS」が笑っちゃうほど理解不能!ポルシェ「911」と真逆の方向性

文=木下隆之/レーシングドライバー
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ルノー「トゥインゴS」

 さまざまなクルマを紹介してきている本連載だが、今回紹介するのは、にわかにはその存在意義に理解に苦しむような個性的なモデルである。

トゥインゴS」は、仏ルノーがリリースするコンパクトモデルである。パリの街中をチョコチョコとコマネズミのように駆け回る姿を想像する。全長約3.6m、幅1.6mと、軽自動車よりはやや余裕があるものの、小振りであることに違いない。それでいて5ドアハッチバックを採用。大柄なフランス人が前後に乗り込めばギュウギュウ詰めになるだろうが、それもご愛敬。狭く入り組んだ町並みでは重宝がられるサイズなのである。

 機構的な最大の特長は、リアエンジン×リアドライブ(RR)を採用していることである。あのポルシェ「911」同様のRR駆動方式であると聞けば、小首を傾げたくなることだろう。

 ただし、ポルシェが圧倒的なスポーツパフォーマンスを求めてRR駆動方式を採用するのとは目的が異なる。トゥインゴはモータースポーツで名声を上げるためでもなければ、スポーツ走行派へのアプローチを狙ったわけでもない。パリの街中をすばしっこく駆け回るためのRRなのである。

 その理由は、最小回転半径を切り詰めたかったからだ。達成したの回転半径は4.3m。つまり、4.3mの道幅があれば、切返しをせずともUターンが可能なことを意味する。一般的なコンパクトカーが採用するフロントエンジン×フロントドライブではないのは、前輪のサスペンションレイアウトの自由度を得るためである。前輪の切れ角を増やすためには、時にはフロントに積まれたエンジンが設計的に邪魔をすることがある。前輪を駆動させるためにはドライブシャフトをホイールに連結させる必要があるが、それが切れ角の障害になる。それを嫌ったからこそのRR採用なのだ。なんにもない伽藍堂の空間で、シャフトと連接せずとも良いという自由を勝ち取ったフロントタイヤは、グビッと大きく切れることになった。

 歩道に乗り上げながらの路上駐車が少なくなく、時には前後を塞がれてしまうほどタイトに駐車されて、にわかに脱出できなくなるフランスでは、とても都合がいい。道路事情と交通マナーを考えればRRに行きつく。速く走るためのRRではなく、街中をスムーズに走るためのRRなのだ。

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 しかもトゥインゴSは、1リッターの自然吸気エンジンを搭載するというから、ますます個性的である。トゥインゴには0.9リッターターボ搭載車もラインナップしている。というのに、「S」の名がつくこれは、あえてローパワー仕様だというから面白い。直列3気筒の73psエンジンは確かに非力であり、山坂道を駆け上がるには苦労することになる。それを承知でのローパワーなのだから、理解の範疇を超えていると言わざるを得ない。

 ただし、5速マニュアルミッションと組み合わされることで解消もしている。オートマチックを採用しなかったのは、シフトレバーをコキコキと駆使すれば、限られたエンジンパワーを有効活用できるかもしれないし、そうでなければ元気に走らないということなのだろう。

 ルノーの関係者の言葉を借りれば、「小気味良い走り味をお楽しみください」とのことだ。

 実際に山坂道を駆け上った印象からすれば、なかなかご機嫌である。常にアクセルペダルを床まで踏み続けている必要があるし、それでもエンジンは唸ったままである。だが、それがいつしか走ることの楽しみになってくるから不思議だ。本来、ワインディングを駆け回るための「S」ではないとしても、楽しいのである。

 こんなユニークなクルマがあることを知って、ちょっと頬が緩んだ。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

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