PCR検査受診のあり方をめぐる議論が日本全国で続いている。そんななか、「コロナウイルス感染が御心配で検査をご希望の方に」と題する文書が、千葉県市川市内のクリニックで発熱症状を訴える患者に配布されている。そこには市川保健所、市川市医師会、新型コロナウイルス対策連絡会の名が記された上で、「重症の肺炎患者以外はPCR検査を行わない」という驚きの方針が述べられていた。果たして、これは本当なのか。
「コロナ感染が否定できない以上外出せず自宅で安静」
文書では次のように述べられていた。
「発熱症状の患者さんはまず一般診療所で診察し、入院治療が必要となるような肺炎が疑われる患者さんのみを病院にご紹介し、病院が必要と考えたケースのみコロナウイルスのPCR検査を行うことになりました」
「コロナウイルス感染が疑わしい方も肺炎症状がない方は検査の対象にはなりませんし、検査目的に病院を御紹介することはできなくなりました。保健所の帰国者接触者センターも検査や受診の相談、指示は行わないことになりました」
「コロナウイルス感染が御心配な方も検査でコロナ感染かどうか調べることはできませんが、コロナ感染が否定できない以上外出せず自宅で安静にしてください」
要約すると、PCR検査の受診は「重症の肺炎患者」のみしかできない。肺炎に至らない場合は、「自身の責任で自宅療養を」ということだ。確かに厚生労働省などは、コロナウイルスに感染しているかどうかを見極める一つの指標として特徴的な肺炎のCT画像をあげている。だが、それは指標のひとつであって、検査をするかどうかの結論ではなかったはずだ。また、現時点で肺炎ではない患者も重篤化する可能性がある。
また新型コロナウイルス感染症は「指定感染症」だ。確定診断がなされていない患者が働きに出たり、買い出しに行ったりすることを法的に拘束することはできない。結果として、新たなクラスターや経路不明の感染者が続出し続けることになるのではないか。
市川保健所「公式文書ではない」が大意は否定せず
市川保健所の担当者は、同文書は保健所当局の公式文書ではないとした上で次のように説明する。
「基本的に、重症度の高い方は優先的に地域の医療機関に紹介しPCR検査を受診していただいています。軽症の方は地域の一般の診療科で診るという方針です」
では現時点で重症化していない患者は、コロナウイルスに感染しているかどうかをどのように判断すればよいのか。
「その場合は、受診された一般病院の医師が判断して(PCR)検査をするかどうかを決定していただくかたちになっています。決定権は医師にあります」(保健所の担当者)
自宅療養で感染拡大は防げるのか
厚生労働省の関係者は話す。
「新型コロナウイルスは指定感染症なので、診断されれば軽症であっても入院が必須になります。『入院隔離が必須』という部分の制度設計の不備が、医療現場崩壊を招くトリガーになってしまっているのは確かだと思います。
東京都などが特措法下でホテルの借り上げで対応しようとしているのは、そのためです。『他者への思いやり』や『社会への貢献』といった心掛け論では、外出自粛できない環境の方もまだまだ多いです。感染者をしっかり隔離し経過観察できる体制が整わない限り、収束は望めないでしょうね。
市川地区は医療機関の崩壊を防ぐために自宅療養を重視し、そのような対応を取られているのだと思います。一方で先日、清水建設の従業員の方が新型コロナのPCR検査受診前に自宅で容体が急変され、亡くなられた例がありました。都市部では単身でお住まいの方も多いです。基本的に疑い例や軽症者が自宅待機する場合、1日1回保健所や医師などから問診の電話をかけることが一つのガイドラインになっているのですが、それでは防ぎきれない事例もあると思います。一般論ですが、肺炎がない発熱者や感染疑いの方を全員自宅療養にし、その経過観察を地域の医師だけに丸投げするというのはリスクが高いです。
発熱者や疑いのある患者の家族構成などを踏まえ、単身で容体の急変の可能性がある場合にはホテルや病院での隔離を検討するなど、きめ細かく選定する必要性があるのですが、おそらくその分野の人手と知見が圧倒的に足りていません」
どれもこれも、問題が発覚した当初から指摘されていたことが、そのまま現実になっている。コロナ禍の大侵攻に対応が追いつくのは、いつになるのだろうか。
(文=編集部)