
手掛けた仕事の原稿料が何カ月も支払われないことが重なり、貯金も底をつき、ついに親子3人全財産18円という死活問題に直面。野草を探しに行ったり、ハム2枚で取っ組みあい寸前の親子げんかも経て15年、怒濤の嵐をくぐり抜け、子どもは大学を卒業。相談者側だった母は、今では社団法人の理事長として、多くの人から暮らしの相談に乗る毎日に――。
これは筆者の実話です。興味本位に思われるのが嫌で、今まで語ってはきませんでしたが、コロナ不況で家計に不安を感じている方が増えてきたと聞きます。何か一つでもお役に立てば幸甚です。
貧乏の不安や絶望感は、経験した人でないと到底、理解はできない
あまりにショックなことが起こると、人は思考と行動を止めてしまいます。全財産が18円しかない家庭から相談されたら、早急に日給の仕事を探すか、行政に相談に行くことをアドバイスします。でも、当時の筆者が取った行動といえば、食べられる草を探しに行ったこと。2時間ほど歩き回っても、舗装が行き届いた都市部で見つけることはできませんでした。
帰り道、知り合いの高校生に出会い、お金を借りようかとも考えましたが、「カツアゲと間違われないだろうか」と考え直し、心で大泣きしつつも、飛びっきりの笑顔で別れたことは忘れられません。
フリーの物書きだった筆者の次の原稿料振込日まで、あと1週間。家に戻って食料のチェックをしたら、お米とハム、卵、豚肉、野菜、パスタぐらいで、1週間を乗り切れる十分な量とはいえませんでしたが、なんとしてもやっていかねばなりません。ハム1枚もチビチビ使いながら料理をつくっていたのに、5枚残っていたハムのうち2枚を子どもが勝手に食べ、取っ組み合い寸前の大げんかに。もう情けなさの極致です。
結構がんばったのですが、5日目に食料はつきました。「こんな都市部に住んでいるのに、遭難か。あとは笑うしかない」と思っていたら、ご近所の方がお総菜を差し入れてくださったのです。もう後光が射しているように見えました。お陰でなんとか1週間を乗り切ることができました。
無事に原稿料が振り込まれたのですが少額で、結局、正常の家計に戻るまでには何カ月も必要としました。その後も、振込を忘れる団体や企業があったりなどのアクシデントが起こり、下の子どもが大学を卒業するまでの10年間の苦しさはかなりのものでした。その間の不安や絶望感は、経験した人でないと到底、理解はできないと思います。「なんとしても子どもを社会に送り出すまでは」という悲壮ともいえる思いだけが支えとなっていました。
まず第一に「覚悟」と「モチベーション」
お金を貯めるための鉄則は、「収入-貯金=使えるお金」です。よく「家計改善のためには家計簿をつけて支出を把握し、見直しましょう」といわれますが、まさに正論です。でも、今回の新型コロナウイルスの感染拡大で会社の経営が傾いたり、パートやアルバイトの出勤停止だったりというように、長い人生においてはさまざまなアクシデントが発生し、その法則が通用しないときもあります。