歌舞伎町で起きたヤクザによる[スカウト狩り」の背景とは? 元マル暴も指摘する「コロナ禍の空白化」の画像1
緊急事態宣言下の歌舞伎町

 眠らない街、新宿・歌舞伎町。これまで、風俗営業法迷惑防止条例などで多くの店舗がさまざまな摘発を受けながらも、良くも悪くも、街から夜の灯が消えることはなかった。違法営業に対する取り締まりが強化されたとしても、煌々とネオンが輝き続け、働く者も楽しむ者も途切れることなく集まってくる。それが日本随一の繁華街、歌舞伎町の本来の姿だったのだろう。

 その歌舞伎の街並みが、これまでにないほどの変貌を遂げてしまった。4月、コロナ禍での緊急事態宣言を受け、歌舞伎町から、ネオンも人も消えたのだ。当局による規制強化などの逆風のなかでも変わることがなかった灯を、新型コロナウイルスは、一瞬で消し去ってみせたのだ。その光景は、暗がりに包まれた日本社会全体の現状を表していたとさえいえるだろ。

 だが、歌舞伎町はやはりただならぬ街だった。緊急事態宣言の解除を待たずして、徐々に人出が戻ってきたのは、ゴールデンウィークが明けた頃となった。それと重なり合うように、違法な客引き(キャッチ)やスカウトをする若者たちも街角に姿を現し始め、華やかさと怪しさが同居する歌舞伎町のネオンが甦ったのだ。だが、この客引きとスカウトがいわくつきだった。それが今回、歌舞伎町で起きたヤクザによるスカウト狩りにつながり、最終的には、機動隊が派遣される事態にまで発展したのである。

 路上での客引きやスカウトは、迷惑防止条例違反行為となる。しかし、歌舞伎町では摘発の目をかいくぐり、違法行為が横行しているのも事実だ。ただ、そうした違法な世界でも、ルールや秩序があるのも事実といえるだろう。代表的なものが、その地域に脈々と受け継がれる“縄張り”であり、それぞれの縄張りを守っているのが、暴力というカードを携えたヤクザということになる。

 つまり、縄張り内で客引きやスカウトをやろうと思ったら、そこを仕切っている、いわゆる“ケツモチ”のヤクザ組織に話を通し、ショバ代として、いくばくかの金銭を納めなければならない。もちろん、歌舞伎町でもしかり。その掟を犯した客引きやスカウトは、警察の摘発を逃れてたとしても、ヤクザ組織から制裁を下されることになるのだ。

 ただ、ゴールデンウィーク明けの歌舞伎町は、少し様子が違った。街に人が戻るにつれ、歌舞伎町の外から来た若者たちがゲリラ的に出没し、ショバ代などを払うことなく、客引きやスカウトを行ったのだ。これには、コロナ禍で裏社会による縄張りへの監視の目が緩んでいたという影響もあったようだ。

 しかし、それも束の間であった。5月下旬に緊急事態宣言が解除され、歌舞伎が本格的に再び本格的に動き始めると、縄張りにおける秩序も戻り始めていく。そうしたなかで起きたのが、ルールを無視する客引きやスカウトを暴力的に排除しようとする、ヤクザによるスカウトマン狩りというトラブルである。

 そもそもは、歌舞伎町では名の知れたスカウト会社の有名スカウトマンA氏を、立川を拠点としていたスカウト会社が引き抜いたことで、両者に遺恨が生まれたことが発端でないかといわれていた。そして、両陣営が歌舞伎町で衝突した様子を撮影したとみられる動画は瞬く間に拡散されることになった。

 だが、その説は、関係者や現場のスカウトマンを取材すると、少し違ったように思える。話はもっと単純で、立川を拠点にスカウトをしていたグループが、コロナ禍の間隙を縫って歌舞伎町に進出し、掟を破って、好き勝手にやってしまったのが原因といえそうだ。

「スカウト、ホスト、ホストに通う客、キャバ嬢の間では、一時この話で持ちきりでした。そのグループのあるスカウトマンは月収500万で、運転手を雇い、マイバッハに乗ってるなんて噂もありましたし、とにかく彼らは目立っていました。他のグループのホストやキャッチやスカウトとトラブルになれば、大勢でトラブル相手を探し出して、取り囲んではボコボコにして逃亡するなんて事件が多々ありました」(歌舞伎町のスカウトマン関係者)

 だが、前述した通り、このように好き勝手していたスカウトグループに対して、本気で怒ったケツモチのヤクザが動き出し、いわゆるスカウトマン狩りが勃発。歌舞伎町はさらに混沌とし、あちこちで暴力的トラブルも起こるようになる。それは、6月中旬に事態を重く見た警視庁が機動隊まで投入し、警戒を強化するまで続いたのである。

 現在、歌舞伎町は一定の平穏を取り戻して、「歌舞伎町では、あのグループは態度がデカいと嫌われてましたので、今は邪魔者がいなくなった高揚感に包まれている雰囲気ですね」(同)との声も聞かれる。

元警視庁組織犯罪対策部刑事の興味深い指摘

 歌舞伎町の秩序と均衡はヤクザが守っている――昔からなんとなくいわれていることだが、少なからず、今回それが証明されることになったのかもしれない。

 ちなみに、それを裏付けるような、元警視庁刑事・櫻井裕一氏による指摘があった。コンテンツ配信プラットフォーム「note」に掲載されている、櫻井氏が書いた「コロナ禍が生んだ新宿歌舞伎町の空白地帯」と題されたコラムだ。提供しているのはSTeam Research & Consultingという企業だ。今回、同社の協力のもと、長文だがその一部を引用させていただく。

「元マル暴デカとして誤解を恐れずに言えば、違法な世界には違法な世界のルールや秩序があります。暴力が支配する裏社会の頂点にあるのは、今も昔も変わることなくヤクザと言われる暴力団です。そのヤクザが死守しているのが『縄張り』と言われるものです。新宿歌舞伎町というところは、他の繁華街には見られないほど、昔からその縄張りが事細かに定められており、5メートルおきに区切られている場所もあるほどです。そして、その縄張りを他者が犯すことをヤクザたちは何より嫌います(ちなみにその縄張りという観念を許すまじというのが警察のスタンスでもあります)」

「コロナ禍はヤクザの動きにも大きな影響を与えており、特に高齢の組幹部を擁する組織においては、組員にもかなりの行動制限を敷いていたようです。街から人が減ったうえ、自分たちも行動が制限されていることもあり、他の地域でスカウトや客引きをやっている付き合いのある人間たちからの『一時的に新宿歌舞伎町に入りたい』という声に対して、『NO』としなかった組織もあったようです。その数がどの程度かは不明ですが、少なくともいくつかのグループが、コロナ禍による歌舞伎町の空白地帯を利用した活動を行っていたことは間違いなさそうです」

 元警視庁刑事である櫻井氏は、ヤクザの影響力が削がれた地域を“空白地帯”と表現し、秩序が乱れる要因となっていると語っている。櫻井氏は、元警視庁組織犯罪対策部管理官、つまり「マル暴」のど真ん中にいた人物だ。ヤクザを取り締まる側にいた人が、このような分析をしていることは実に興味深い。

 当局側が裏社会をどう見ているのかを知る上で、この元刑事のコラムは個人的にも楽しみにしている。

(文=沖田臥竜/作家)

●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新小説『忘れな草』が発売中。

【協力】
STeam Research & Consulting株式会社  
企業・経営者・要人のリスクコントロールに特化した専門会社。事業推進、投資、M&A、不動産取引などの活動において、企業・組織が直面するリスクを正確に把握し、迅速に対応するのに必要な高度なインテリジェンスとソリューションを提供する。

【参考】
note「コロナ禍が生んだ新宿歌舞伎町の空白地帯」

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