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航空経営研究所「航空業界の“眺め”」

航空機内でコロナに感染する確率は「0.008%」以下? 3分で全空気入れ替わり

文=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学客員教授
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「gettyimages」より

 世界的に新型コロナウイルスの感染拡大が衰える気配がない。コロナ禍の下で世界の航空業界では、旅客需要が2月以降急減し始め、底を打った5月には国際線で減少率98.4%、国内線で減少率86.9%というかつてない需要喪失を経験した。国内線から需要は徐々に回復しつつあるものの、その上昇傾向は想定よりも緩慢である。航空会社としては、旅客を呼び戻すため、客室内の衛生管理と感染リスクについて旅客の理解と安心感を得ることが、重要な課題となっている。

 そんななか、米国では、機内での新型コロナの感染リスクをめぐって大論争が起こっている。そもそも機内での感染リスクとは、どの程度のものなのだろうか。

中央席の扱いをめぐって米国で大きな論争が勃発

 当初、急減した需要のなかで、世界の多くの航空会社はソーシャルディスタンスに配慮し、少しでも旅客に安心感を与えるため、3席シートで中央席を空席とし旅客が隣り合わない「中央席ブロック」、ないしは座席数制限の方策を取った。日本では緊急事態宣言後、日本航空(JAL)とスカイマークが予約段階で中央席の販売を中止した。なお、スカイマークは6月から、そしてJALも7月から中央席の販売を再開している。

 米国では、アメリカン、デルタ、サウスウェスト、ジェットブルーといった多くの大手航空と格安航空会社(LCC)が「中央席ブロック」を採用してきた。ところが、ユナイテッドに続きアメリカンが7月から中央席ブロックと座席数制限をやめると発表して以来、批判の集中砲火が始まった。批判する側に立ったのは、国立アレルギー感染症研究所所長でホワイトハウスでの記者会見ですっかり時の人となったアンソニー・ファウチ医師、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のロバート・レッドフィールド所長、民主党の大統領候補だったバーニー・サンダース上院議員らそうそうたる顔ぶれである。

 現在、米国で中央席ブロックを行っていない航空会社は、アメリカン、ユナイテッド、スピリットの3社くらいで、手持ち資金に比較的余裕のあるサウスウェストやデルタは、少なくともそれぞれ10月、9月まで中央席ブロックを続けることを明言している。アメリカンやユナイテッドの旗色は決してよくはない。しかし、元ホワイトハウス報道官で今はユナイテッドの広報担当役員(CCO)のジョシュ・アーネスト氏は、記者会見で「中央席ブロックは宣伝的戦略であって安全のための戦略ではない」と真っ向から反論し、「機内で安全を確保する戦略はフィルターでろ過された清浄な空気とマスクの着用である」と主張した。また、両社とも旅客のマスク着用をより厳しくし、フライトが満席になりそうな場合には前もって乗客に知らせ、求められれば無料でフライトの変更を行うという。 

中央席ブロックを義務化する法案提出で議会を巻き込む論争に

 米国オレゴン州選出のジェフ・マークリー上院議員は7月23日、新型コロナが下火になるまで航空会社が中央席ブロックをすることを義務化し、併せて乗員と乗客のマスク着用を強制化する旨の法案を提出した。もっとも、法案が提出されたからといって実際に法制化されるかどうかは別問題である。航空委員会での論議、上院、下院での審議、可決、そして大統領承認までの長いプロセスのなかで、途中消滅した法案は数多い。とはいえ、一石を投じたのは事実であり、議会をも巻き込む論争となった。

 一方、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で航空統計学が専門のアーノルド・バーネット教授は7月に研究論文(未査読)を発表し、中央席ブロックにより新型コロナの感染確率を満席時より半分近く下げられると指摘し、メディアで大きく取り上げられると同時に折からの論争の火に油を注いだ。

満席時に新型コロナが感染する確率とは

 バーネット教授はさまざまなデータを集め統計的手法を駆使して、中央席使用を含め満席の場合と中央席ブロックの場合の航空機内での新型コロナの感染確率を次のように近似計算している。なお、全員がマスクを着用している前提である。

・中央席含め満席:4300分の1

・中央席ブロック:7700分の1

 すなわち、満席では4300フライトに1回という感染確率(0.023%)であるが、中央席ブロックによって7700フライトに1回という感染確率(0.013%)に、大幅に低減できるという結果である。ただし、満席の時の4300フライトに1回という感染確率を高いと見るか低いと見るかは、個人によって異なるだろう。ちなみに、4300フライトというのは毎日一往復(2フライト)したとしても、5.9年かかる計算である。

 さらにこの研究論文を詳しく見てみると、バーネット教授は「新型コロナ感染者がそのフライトに乗り合わせる確率」を米国での感染者数を基に算出している。つまり、上で述べた感染確率は米国の地域性を反映したものだということだ。具体的には、ホットスポットであるテキサス州の6月30日の週の7日間の感染者総数4万2,254人と人口2,900万人を計算に適用している。

東京をベースに算定し直すと、新型コロナの感染確率は大幅に下がる

 バーネット教授の研究論文では、テキサス州の感染者数と人口を用いているが、それ以外のファクターでは世界共通であるため、東京の感染者数と人口に置き換えて、東京ベースの感染確率を算出してみると以下のとおりとなる。ただし、現在の東京での感染者数は1日200~500人程度であるが、今後急増する可能性も考慮し一日1,000人、7日間で7,000人の感染者数と想定している。  

・中央席含め満席:1万2500分の1

・中央席ブロック:2万2400分の1

 同教授の計算と同様に、中央席をブロックしない場合の感染確率が約1.8倍となることに変化はないが、仮に満席でも1万2500フライトに1回という大幅に低い感染確率(0.008%)となる。ちなみに、1万2500フライト飛ぶには、毎日一往復(2フライト)しても、17年かかる。

 加えて、バーネット教授の研究では、旅客間の物理的距離を考慮しているが、機内の換気の良さと空気の流れについては統計モデルに反映していない。これを考慮すれば、さらに感染確率が下がる可能性もあるのではないか。

高い換気能力と医療用フィルターが航空機の売り

 世界の航空会社が異口同音に訴えているのが、客室内の圧倒的な換気能力の高さと空気の清浄さである。民間航空機の設計基準では、客室内の換気能力として乗客一人当たり1分間に0.55ポンド(0.25kg)の新鮮な空気を送り込まなければならないと決められている。これは容積にすると150リットルに相当する空気量で、だいたいどの航空機でも2~3分で機内の空気がすべて入れ替わる。高層ビルのオフィスでは換気に30~60分かかるので、航空機の換気能力の高さがわかる。加えて、空気の流れが天井から床下へ向かっていること、前後方向にはほとんど行かないことも感染防止上、意味がある。

 また、一部の空気は循環されるが、医療用フィルターでもあるHEPAフィルターによって浄化される。HEPAフィルターは0.3ミクロンの粒子を99.97%補足できる性能を持ち、性能実験では小さなウイルスも吸着できる能力を示しているため、病院の手術室のフィルターにも用いられる優れものである。

 結論として、少なくとも日本国内でマスクをして飛ぶ限りは、たとえ満席時でも新型コロナの感染リスクについてほとんど心配は要らないであろう。ただ、もし米国内、特に現在のテキサス州やフロリダ州のように感染が拡大している地域で飛ぶ場合には、それなりに注意が必要かもしれない。

(文=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学客員教授)

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