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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

次期首相最有力だった岸田文雄氏、自民党の“お荷物化”…党内で失笑通り越し顰蹙

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
次期首相最有力だった岸田文雄氏、自民党の“お荷物化”…党内で失笑通り越し顰蹙の画像1
岸田文雄氏のインスタグラムより

 菅義偉官房長官の勝利がほぼ確実となった自民党総裁選だが、総裁候補に出馬した岸田文雄自民党政調会長の選挙後の処遇が永田町関係者の間では「裏の争点」となっている。ついこの間まで「安倍晋三首相の後継は岸田」という認識が一般的だっただけに、それが外れた今となっては「何の実績もないタダの三世議員」(自民党関係者)。約50人の所属議員を抱える名門派閥「宏池会」の領袖なだけに、ぞんざいに扱うわけにもいかないが、よいポストをあてがうわけにもいかず、もはや「党のお荷物」と化している。

演説は「サラリーマンのつまらないプレゼン」

 8日に菅官房長官、岸田政調会長、石破茂元幹事長が総裁選立候補の立会演説会に登壇。最有力候補の菅氏は朴訥だが叩き上げ感がにじむベテラン議員の演説、石破氏は新興宗教の教祖のような怖さはあるが主張がはっきりしていてインパクトがある演説だった。

 それに引き換え、岸田氏の演説は全く印象に残らないどころか、変にカタカナ語を使おうとしてみたりしており、「政治家にとって最大の武器の演説が全く鍛えられておらず、まるでサラリーマンのつまらないプレゼンだった」(全国紙政治部記者)。少なくとも、日本という国を背負って立とうかという人物が備えていなければならない気迫や信念は全く感じられなかった。

 岸田氏は「デジタル田園都市構想」を目玉施策に打ち出し、地方を重要視する姿勢を見せたが、そもそも東京生まれ東京育ちのお坊ちゃんである。選挙区は広島だが、父文武氏の地元がそうだったというだけ。広島には選挙活動で立ち寄ったりはするだろうが、それで地方の実情を知っているとは言えないだろう。宏池会出身の故大平正芳首相の「田園都市構想」を参考にしたというが、こういう薄っぺらさがプロの投票者である国会議員などの評価を下げる結果となった。

「最有力候補から滑り落ちれば、本来は巻き返そうと2倍、3倍頑張ろうと思うものだが、ヘラヘラ笑っていてそんな素振りは感じられなかった」(ベテラン自民議員)

安倍辞任の日に新潟に出張

 今回の総裁選をめぐる岸田氏の一連の動きを見ていて、今回の演説の中身のなさと共通するものがある。それは、危機感である。

 まず、先⽉28⽇に安倍⾸相が体調不良を理由として辞任を表明したが、当日は午後から記者会⾒するとのアナウンスがあったにもかかわらず、新潟県に出張に⾏き、慌てて引き返すという醜態をさらした。⾃⺠党の臨時役員会が開かれた時も岸⽥⽒だけが間に合わず⽋席した。全国紙政治部記者によると、午前中に番記者から「さすがに今⽇はやめておいたほうがいいんじゃないですか︖」と問われたにもかかわらず、「予定通り」と出発したというのだから、⽬も当てられない。

 政治家だけでなく、一般社会でも自分が所属するトップが体調に関わる重要発表をするという時にすぐに駆け付けるようにしておくのは当然の危機管理である。それができない時点で、邦人拉致などを含めた国家の危機対応の責任をとる首相の資格はない。

大学受験に失敗したことが「人生の挫折」

 さらに、今回の演説でも「人生の挫折」というくだりの中で「大学受験に失敗したこと」と答えていたのには失笑を通り越して顰蹙を買っていた。岸田氏は通産官僚だった父の仕事の関係で小学校1年生から3年生までアメリカで過ごし、帰国後、千代田区立永田町中学校、千代田区立麹町中学校を経て、超名門の開成高等学校に入学している。開成高校とは周知の通り、「東大行って当たり前」の高校である。岸田氏は東大の受験に失敗して2年浪人した後、早稲田大学法学部に入学しているが、これが「人生の挫折」と60を超えたいいオッサンが言うのだから言葉も出ない。

 まして、岸田氏は本質的に戦うことが職業の政治家であり、本来もっとまともな「挫折」があるはずである。本人は冗談のつもりかもしれないが、たたき上げの菅氏や二階俊博幹事長が岸田氏を毛嫌いする理由は、このあたりにあるのだろう。行きたい大学や就きたい職業に就きたくても就けない人間のほうが世の中には多いことに気付けない鈍感さはリーダーとして致命的だ。

よくて防衛相、悪くて党の名誉職で事実上引退

 さて、もともと首相の器ではなかったことが露呈した岸田氏だが、次のポストとして「よくて防衛相、悪くて自民党の名誉職で事実上引退」との観測が強まっている。岸田氏は47人の大派閥の宏池会の領袖のため、無役にはさすがにできない。菅内閣が成立した際、入閣できるとして、これまでの外相経験を生かした防衛相だが、「つい最近まで防衛庁だった三流官庁で降格感は否めず、現在の河野太郎防衛相が続投すれば不可能」(前出の全国紙政治部記者)。自民党の役職についても、政調会長として新型コロナウイルスの給付金をめぐり、二階氏と公明党に10万円一括給付に押し切られた失態を演じたため、続投は考えにくい。政調会長につけたのも安倍首相が岸田氏に実績をつくらせようという厚意があったからだ。

 しかも、次期政調会長には甘利明党税制調査会長が就任するとの公算が高まっており、ますます居場所がなくなる始末。そうなると、残るポジションとしては実権のない名誉職ということになるが、そうなると宏池会会長にとどまることも難しくなるだろう。派閥の長はポストとカネを調達し、子飼いの議員の面倒を見られる人間でないと務まらないからだ。

宏池会分裂の戦犯になるか

 岸田氏が長を務める宏池会は、戦後日本の経済成長の道筋を付けた故池田勇人首相が1957年に設立して以来の自民党最古の派閥だが、1991年から93年まで首相を務めた故宮澤喜一氏以降、首相を輩出できていない。「ケンカができない公家集団」と揶揄されて久しいが、そもそも前回の2018年の自民党総裁選で安部首相からの禅譲を期待して出馬を見送るような岸田氏をリーダーに据えておくところからも政治集団としてはあまりに軟弱と言わざるを得ない。闘わずに勝ち取れるほど首相の座は軽くはない。

 岸田氏は宮澤氏以来の空白の30年を挽回する期待をかけられてきた。それがこの醜態をさらしたことで急速に求心力は落ちている。宏池会は現在岸田派と呼ばれているが、名称変更の日は近い。

 次の宏池会のリーダーは、実力と格から言えば林芳正元防衛相だが、参議院議員で総裁候補にはなれない。となると、統計偽造問題で批判された根本匠衆議や、ハンコ議連会⻑にもかかわらずIT担当相に就任した⽵本直⼀衆議など途端に頼りない面々になる。リーダーシップのなさに辟易した若手などが派閥を割ることも考えられる。

 故田中角栄首相は「政治は数、数は力、力は金だ」との名言を残している。永田町では弱った派閥は強い派閥に食われるのが常だ。弱った宏池会が分裂し、他派閥に吸収され弱体化するというシナリオは十分にあり得る。そうなれば、岸田氏は名門派閥を滅ぼした戦犯として長く語り継がれるだろう。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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