
2018年度、公立学校の教職員で病気療養のための「休職」を申し出た人数は7949人だった。そのうち66%が「精神疾患」での療養とされている。志を持って教師になった人たちが精神的に追い詰められ、休職に至るケースが増えているのだ。
「教育現場における尋常ではない忙しさが一番の問題ですが、さまざまな人間関係の軋轢も大きな原因のひとつです。子どもたち、保護者、それに学校内の同僚との関係がうまくいかないと、逃げ場なしの三重苦になってしまいます。特に、保護者との関係性をどうするかというのは教師ならではのテーマで、時に理不尽な要求をされるなど、解決しにくい悩みになってしまうこともあります」
こう話すのは、『教師の悩み』(ワニブックス)の著者で明治大学文学部教授の諸富祥彦氏だ。諸富氏は1993年から千葉大学教育学部に勤務し、スクールカウンセラーとして、主に教師になる前の学生や教育現場で「不適合」とされて再教育研修を受ける教師と接してきた。
そして、多くの教師たちの相談に乗るうちに、教師の悩みが深くなってしまうのは世間のバッシングの大きさも関係している、と考えるようになったという。
「教師は多大な仕事量をこなしつつ、子どもたちの指導に保護者対応にと身を粉にして働いているのに、それを理解せずに一方的に叩く風潮はいかがなものかと思います。そこで、教師を追い詰めるのではなく、応援することで学校を良くしていけないかと考えるようになったのです」(諸富氏)

諸富氏は99年11月から、有志を集めて「悩める教師を支える会」の活動を始めた。同会でヒアリングした教師の悩みを集め、その解決法を探るべく著したのが『教師の悩み』だ。
本書には、仕事の忙しさや人間関係でうつになりかけている教師たちの声や、学級崩壊が原因で心身が崩壊してしまった教師の体験が生々しく綴られている。
「生徒たちが授業中に騒いだり落ち着きがなくなったりして、担任ひとりでは手がつけられない学級崩壊状態になってしまったケースでは、その様子を生徒たちから聞いた保護者が『授業がちゃんとできてないんじゃないですか?』と先生をバッシングし、保護者会にまで発展する事態になりました。その会では、先生が保護者たちから『辞めろ』コールを浴びせられ、その様子を見た学校の管理職からも『君は教師失格だね』と責められてしまい、その担任の先生はうつ病になってしまいました」(同)
まさに逃げ場なしの地獄のようだが、このように追い詰められてしまう教師は真面目で責任感が強く、純粋な人が多いという。
「担任教師ひとりに対して、数十人の生徒や保護者が責め立てる。教師は他に頼れる人はいないので、ひとりで何とかするしかないわけです。そもそも、ひとりの人間をよってたかって追い詰めるのはいじめに他なりません。そして、こうした事態が実際に起きているのに、世間の人たちは『学級崩壊は教師の力量不足が原因だ』と決めつけています。
世間が教師に求めているのは、スーパーマンのように何でもこなせる完璧な人間なのです。しかし、実際にはできないことを求められて、限界まで追い詰められている。それが教師の現状だと思います」(同)