東京23区内に新たな地下鉄の構想があることをご存じだろうか。東京メトロの有楽町線豊洲駅と半蔵門線住吉駅を、東西線東陽町駅を経由して南北につなぐ「豊住線」と呼ばれる計画だ。実現すれば、東京東部の交通利便性が向上することになるが、その前にはクリアすべき課題もある。
「今が実現のチャンス」と訴える、江東区土木部地下鉄8号線事業推進担当課長の小林秀樹氏に話を聞いた。
東京メトロの完全民営化が前提に
――まず、有楽町線の延伸構想について教えてください。
小林秀樹氏(以下、小林) 有楽町線豊洲駅と半蔵門線住吉駅を結ぶことで、東京東部に優れた南北交通軸を形成するというものです。全長約5.2kmで、豊洲駅と東西線東陽町駅の間、東陽町駅と住吉駅の間に、それぞれ新駅を設けます。実現すれば、住吉駅から豊洲駅まで乗り換えなしの9分で移動できるようになります。
――現在の進捗状況はいかがでしょうか。
小林 豊洲市場を開場する際、東京都は江東区に対して「安全・安心」「賑わいの継続」「交通対策」の3点を配慮することを約束しました。その交通対策のひとつとして、地下鉄8号線(有楽町線)の延伸があります。東京都は2018年度中を目途に「地下鉄8号線延伸のための事業スキームの構築に取り組んでいく」との方針を示しましたが、今も事業スキームは示されていません。
また、東京都は19年3月には「東京メトロによる整備、運行が合理的」との姿勢を示しました。現在、東京メトロの株式は国と東京都が保有していますが、売却により完全民営化を目指しています。計画の具体化には、まずは、そうした課題をクリアすることが大事であると考えます。山﨑孝明江東区長も、小池百合子都知事に対して「8号線延伸は、江東区民長年の悲願である」と強く訴えています。
――国の動きについてはいかがでしょうか。
小林 国土交通省は、交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会に「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」を新設し、1月22日に初会合が行われました。東京都もオブザーバーとして参加しているので、今後も「東京メトロによる整備、運行が合理的」との姿勢で前向きに進めていただきたいと思っています。
この小委員会のポイントは、東京メトロの株式売却をめぐり、8号線の延伸建設を含めた地下鉄ネットワークの議論が浮上しているところです。夏に答申がまとめられる予定で、その内容によっては8号線延伸構想が一気に進む可能性があり、期待しています。
――延伸構想の必要性について、教えてください。
小林 東京東部は、東西交通に関しては、JR総武線、都営地下鉄新宿線、東西線などがありますが、南北交通はバスに依存しているのが実情です。もちろん、バスの良さもありますが、大量輸送、時間の正確性という点においては鉄道に優位性があるのも事実で、そうした事情から整備が望まれています。
江東区は人口が52万を超え、特に臨海部が目覚ましい発展を遂げています。また、大田区との間で中央防波堤埋立地の帰属問題が決着して、江東区の土地は南北に長くなりました。既存市街地の深川・城東地区と発展が著しい臨海部地区をスムーズにつなげることで、文化交流を促進する意義は大きいと考えています。
現在、森下や大島から臨海部に行くにはやや時間がかかってしまいますが、構想が実現すれば約15分で行くことができます。これは江東区だけの問題ではなく、江戸川区など他区の住民の方々にとっても利便性が高まる構想です。
――延伸が実現すれば、東西線の混雑緩和にも効果があるのでしょうか。
小林 今は新型コロナの影響で緩和されていますが、門前仲町駅と木場駅の間の混雑率は199%(19年度)で、4年連続全国ワーストです。8号線の延伸が実現すれば、混雑率が約20ポイント減少すると見込まれています。同様に、JR京葉線も新木場駅から葛西臨海公園駅の混雑率が11ポイント減少する効果が示されています。
――新駅が設置されれば、該当地域の街づくりも進みそうですね。
小林 住吉駅、東陽町駅、豊洲駅が、新宿線、有楽町線、半蔵門線、東西線と接続することにより、さらなる発展が望めます。また、2つの新駅はいずれも鉄道不便地域と呼ばれる地区にできることになるので、交通利便性が大幅に高まり、地域の活性化につながります。江東区は、現在、新たな都市計画マスタープランの策定を進めておりますが、その中でも8号線延伸計画を見据えた新駅拠点という新しい概念を入れております。これからは新駅を中心とした街づくりも考えていかなければなりません。
(構成=長井雄一朗/ライター)