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長期間の放置で“がん化”の恐れもある“痔ろう”とは?「痔は温めるといい」は本当か?

文=真島加代/清談社
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「gettyimages」より

 日本人の3人に1人が「痔」に悩んでいるといわれている。もはや国民病といってもいい痔には、大きく分けて「痔核(いぼ痔)」「裂肛(切れ痔)」「痔ろう(あな痔)」の3種類があり、それぞれ症状が異なる。なかでも、疲れやストレスによる下痢が原因といわれる痔ろうは、長期間放置すると“がん化”する可能性もあるという、恐ろしい疾患だ。痔ろうについて、岩垂純一診療所所長の岩垂純一医師に話を聞いた。

飲酒やストレスが原因に

「あな痔」とも呼ばれている、痔ろう。症状としては、肛門の周りに“膿のトンネル”ができてしまう病だという。

「肛門内にある肛門小窩という器官に細菌が入って炎症を起こすと、化膿して膿がたまります。この膿がたまった状態が『肛門膿瘍(のうよう)』です。たまった膿が自然と破け、皮膚を切開し出口をつくって膿を排出した後、肛門と交通する膿のトンネルが生じた病気を『痔ろう』と呼びます」(岩垂氏)

 ごくまれにトンネルの出口がないケースもあるが、多くがお尻の肛門付近の皮ふに「二次口」と呼ばれる出口を形成する。痔ろうは段階を踏んで進行するという。

「まず、痔ろうの前段階にあたる『肛門周囲膿瘍』を発症すると、38~39℃の発熱や患部の激しい痛み、腫れなどの症状がみられます。その後、溜まった膿が排出して痔ろうになると、膿が外に出るので激痛はやわらぎます。しかし、膿で下着が汚れたり、お尻がベタついたりします」(同)

 最大の問題は、一度貫通した膿のトンネルは括約筋の内部に残るため、膿の出口がふさがっても入り口が肛門の中にあるために、入り口から細菌が入り感染すると、再び膿が出てくること。よって、一度発症すると、自然治癒することはまれだという。

「痔ろうの感染を繰り返して10年以上放置すると、“がん化”する恐れがあります。いぼ痔や切れ痔は手術をせずに済むケースもありますが、がんになる可能性がある痔ろうは手術や入院による根治治療をする必要がありますね」(同)

 たかが痔とあなどっていると、取り返しのつかないことになりかねない。特に「下痢をしやすい人は注意が必要」と岩垂氏は指摘する。

「アルコールの飲み過ぎによる下痢やストレス性の下痢などが、痔ろうの主な原因です。下痢便はやわらかいので肛門の中にあるくぼみ(肛門小窩)に入り込みやすく、そのくぼみにある肛門腺が細菌に感染すると、炎症を起こして化膿します。また、ストレスは免疫力を低下させるので、細菌に感染しやすい状態を招きます」(同)

 飲酒やストレスなど、痔ろうの原因は働くサラリーマンとかかわりが深いものばかり。そのため、青年期から中年期の男性患者が多いのも特徴だという。

「痔は温めるといい」は本当か?

 痔ろうのなかでも6割を占めるのが「低位筋間痔ろう」だ。これは、瘻管(ろうかん)が下に向かって伸び、お尻の皮ふに膿の出口をつくるのが症状である。

痔ろうの手術は、瘻管の伸びている方向や深さなど、症状に合った治療を行います。代表的な手術法のひとつ『切開開放術』は、瘻管を切り開いて膿の通り道をすべて切除します。再発の心配がない治療法ですが、手術の仕方によっては肛門括約筋に大きな傷がついて肛門の形がいびつになり、肛門の締まりが悪くなることもまれにあります。自分の症状や手術方法などを、医師にしっかり確認しましょう」(同)

 そのほかにも、肛門括約筋を傷つけない「括約筋温存手術」や「シートン法」などの選択肢があるので、個人に合った治療を受けられるという。とはいえ、岩垂氏は「痔ろうになる前に専門医を受診してほしい」と話す。

「痔ろうになる前の肛門周囲膿瘍ならば、皮ふを切り開いて溜まった膿を出す『切開排膿』を行います。切開排膿は外来で処置できる症状なので、入院する必要はありません。一旦、膿を出すと約半数は痔ろうにならないで収まります。進行度によっては肛門周囲膿瘍でも痔ろうの手術をするケースもありますが、どちらにせよ早めに治療を受けるのがベターです」(同)

 痛みを我慢していても痔ろうは悪化するだけ。異変を感じたら、すぐに専門医に相談しよう。また、セルフケアする際にも注意が必要、と岩垂氏。

「インターネットで検索すると『痔は温めるといい』という情報が出てきます。確かに、いぼ痔や切れ痔の場合は患部を温めると症状がやわらぎますが、痔ろうの場合は化膿が悪化して痛みが増してしまいます。逆に、痔ろうは患部を冷やすことで症状が緩和されます。間違った自己判断は禁物です」(同)

 痔ろうを防ぐためには、ストレスを適度に解消しつつ、酒量をコントロールしながら生活するのが大事なようだ。

「普段から下痢気味の人は、うどんや鶏ささみ、白身魚など消化によい食生活を心がけましょう。とはいえ、現代のサラリーマンがストレスをためず、酒も飲まずに生活を送るのは難しいと思います。最近は、完全予約制などプライバシーに配慮した病院もあるので、恥ずかしがらずに専門医に相談してみてください」(同)

 痔ろうは誰もが発症する可能性のある病。今一度、自分のお尻に手を当てて違和感がないか確かめてみよう。

(文=真島加代/清談社)

●岩垂純一(いわだれ・じゅんいち)
1973年群馬大学医学部卒業。その後、社会保険中央総合病院大腸肛門病センター長を務め、2006年に岩垂純一診療所を開院。日本臨床肛門病学会理事長、内痔核治療法研究会名誉代表世話人を務める傍ら、メディアなどでも活躍中。著書多数。

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清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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