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片田珠美「精神科女医のたわごと」

【大阪カラオケパブ刺殺】ストーカーの4類型、ストーカー殺人犯の5つの性格傾向

文=片田珠美/精神科医
【大阪カラオケパブ刺殺】ストーカーの4類型、ストーカー殺人犯の5つの性格傾向の画像1
稲田真優子さんが経営していたカラオケパブのInstagramより

 大阪のJR天満駅近くでカラオケパブを経営していた25歳の稲田真優子さんが刺殺された事件で、大阪府警は6月18日、同店の常連客だった56歳の会社員、宮本浩志容疑者を殺人の疑いで逮捕した。

 宮本容疑者は、稲田さんが別のカラオケパブで働いていた4年前頃から稲田さんがいる日だけ店に通うようになったという。しかも、昨年7月に稲田さんが前の店を辞めて今年1月に自分の店を開店すると、宮本容疑者はほぼ毎日訪れていたようだ。

 稲田さんが前のカラオケパブで働いていたとき、宮本容疑者にしつこくされて、「もう来ないでください」と強く通告したこともあったほどだが、それでも宮本容疑者は連日店に通っていたと報じられている(「文春オンライン」6月19日配信 記事より)。そのため、稲田さんは「連絡がしつこい」「何十件も(通信アプリの)LINEで電話やメッセージがくる」などと周囲に漏らしていたとの報道もある。

 一連の報道が事実なら、宮本容疑者はストーカーまがいのしつこい客だった可能性もある。宮本容疑者は容疑を否認しており、今後の捜査の進展を待たねばならないが、もし彼の犯行とすれば、ストーカーが暴走して凶行に及んだ“ストーカー殺人”とも考えられる。

 そこで、今回はストーカーの定義、分類、性格傾向などについて解説したい。

ストーカーの定義と分類

 ストーカーとは、一方的に相手に好意を寄せ、相手もまた自分に恋愛感情や関心を抱いている、もしくは将来抱くであろうという幻想からつきまとう人物である。

 精神医学的には、次の要件を満たす場合、ストーカー行為と認定される。

1)   特定の個人に対して直接的、継続的になされる

2)   ターゲットから望ましくない介入とみなされる

3)   ターゲットに恐怖や不安を与える

 宮本容疑者の一連の行動は、この3つの要件を満たしており、ストーカー行為に該当する。

 また、誰をターゲットにするかによって、ストーカーは4つのタイプに分類される。

A)   破局愛型

B)   接客業型

C)   有名人型

D)   無関係型

 A)破局愛型は、かつて恋愛もしくは婚姻関係にあったが、その関係が失恋や離婚などによって破綻した後も、それを受け入れられず、執拗に追い回すタイプである。その典型が、

 2013年10月、東京都三鷹市で女子高生を殺害した日本人とフィリピン人のハーフの20代の男だろう。

 大阪市内に住んでいた男と三鷹市在住の女子高生は、2011年にSNSを通じて知り合い、一時は交際していたが、女子高生側が別れを切り出し、いったん交際は終わった。しかし、男のほうは受け入れられなかったようで、しつこく復縁を迫ったものの、かなわなかった。そのため、女子高生の殺害を考えるようになり、上京して凶器となるナイフを購入し、女子高生の自宅に侵入して待ち伏せたうえ、11カ所の刺し傷・切り傷を負わせて殺害した。

 この三鷹ストーカー殺人事件では、男が女子高生を殺害する直前に、インターネットの掲示板などで女子高生の性的な画像・映像を投稿していたことも話題になった。この画像・映像は事件が報道されるにつれて拡散され、多くの人の目に触れることとなり、いわゆる「リベンジポルノ」が社会問題化するきっかけともなった事件である。

 B)接客業型は、接客業に従事している相手に一方的に恋心を募らせ、しつこくつきまとうタイプであり、宮本容疑者もこれに該当する。このタイプのストーカーが暴走して起こした事件として有名なのは、2009年8月、東京都港区で耳かきサービス店員の21歳の女性と祖母が40代の無職の男に刺殺された事件だ。

 この男は、耳かき店の常連で、被害者の女性をしつこく食事に誘うなどした結果、店を出入り禁止になり、女性の自宅で待ち伏せした。しかし、逃げられたため、「もう会えない」との絶望感から、憎しみや怒りを募らせて殺害を決意したようだ。

 このように接客業に従事する女性に一方的に恋愛感情を抱いてストーカー化する男性は少なくない。女性のほうは仕事柄笑顔で接しなければならず、むげに断れないので、勘違いする男性が多いのかもしれない。

 同様のことは、接客業に限らず、サービス業全般で起こりうる。スーパーやコンビニのレジの女性から、客に待ち伏せされたとか、自転車のかごの中に卑猥な内容の手紙を入れられたとか相談を受けることがある。レジの女性も笑顔で接しなければならず、お金の受け渡しの際に手が触れ合うので、男性の恋愛幻想に拍車をかけるのではないか。

 C)有名人型は、アイドルをはじめとする芸能人、あるいはアスリートやアナウンサーなどをターゲットにするタイプである。アイドルがストーカー被害に遭ったという話は枚挙にいとまがないが、これはファンにとって疑似恋愛の対象だからだろう。

 D)無関係型は、通りすがりに見かけたり、同じ電車に一緒に乗り合わせたりした見ず知らずの相手に一方的に恋愛感情を抱き、つきまとうタイプである。ターゲットにされた被害者からすれば、どうしてこんな目に遭うのか皆目わからず戸惑うことが少なくない。

ストーカーの性格傾向

 ストーカー化しやすい人には次のような性格傾向が認められる。

1)   独占欲が強い

2)   嫉妬深い

3)   都合のいいように現実を歪曲

4)   極端な献身と怒りの間を往復

5)   特権意識が強い

 宮本容疑者は「(稲田さんが)他の客の接客をして相手にされないと、切れたり怒鳴ったりすることがあった」という常連客の証言があり、独占欲が強く、嫉妬深かった可能性が高い。

 また、相手が自分を拒否していても、自分に都合良くねじ曲げて解釈する傾向が強い。たとえば男性なら、「あの女性は恥ずかしがっているだけで、本当は僕のことが好きなのだ」、女性なら「あの男性が私とつき合わないのは、私が高嶺の花で手が届かない存在だと思っているから」などと曲解する。そして「相手が恥ずかしがっているのだから、私から近づいていかなければ」と考え、ストーカー行為をしてしまうのである。

 さらに、毎日稲田さんの店に通っていた宮本容疑者は「1日1万円以上遣っていたので月に30万円くらいにはなっていたと思います」という証言もあるので、「ここまで貢いでいるんだから」という認識が宮本容疑者にあったとしても不思議ではない。

 もちろん、いくら貢いでも、あくまでも本人の意思なのだが、それに応えてもらってないように感じると、激しい怒りを爆発させる。その結果、極端な献身と激しい怒りの間を行き来しているように見えるのもストーカー化しやすい人の特徴だ。

 そのうえ、これだけお金を遣っているんだから、自分は特別扱いされて当然という特権意識が強い。だから、少しでも拒否されたとか、ないがしろにされたとか感じると過剰反応して、怒りから暴走する。

 結局、ストーカーを突き動かすのは怒りである。怒りをコントロールできず、ターゲットに罰を与えたいという懲罰欲求と復讐したいという復讐願望が強くなって、暴走する。暴走の末に殺人を犯すこともあり、被害者からすればたまったものではない。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献

片田珠美『自己愛モンスター』ポプラ新書 2016年

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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