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解散権も人事権も剥奪されレームダック化…自民党内、菅首相“引きずり下ろし”の舞台裏

文=編集部
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解散権も人事権も剥奪されレームダック化…自民党内、菅首相引きずり下ろしの舞台裏の画像1
「首相官邸 HP」より

「2A vs. 2F」

 自民党総裁選は永田町ではこう呼ばれている。2Aの1人は安倍晋三前首相。自民党の最大派閥、細田派の実質オーナーである。もう1人は麻生太郎財務相。2番目に所属議員が多い麻生派を率いている。2Aに土壇場で見放され、菅義偉首相は万策尽き、退陣に追い込まれた。

 2Fはセカンド・フロアの略で二階俊博幹事長を指す。2Aからの圧力に屈し、延命のために菅首相は“二階切り”を決断したが、総裁選出馬を表明した岸田文雄前政調会長が二階氏を念頭に置き「総裁を除く党役員の任期は1期1年、連続3期まで」との方針をぶち上げたからだ。争点つぶしのために二階切りを断行したが、党内では「延命のために、政権実現のために汗を流した恩人を切るのか」と批判された。強引な党運営などが目立ち、2Aだけでなく若手からも距離を置かれていた二階氏だが、二階外しは完全に裏目に出た。

 8月31日には「首相が総裁選を先送りして9月中旬に衆院解散に踏み切る」との情報が駆けめぐったが、いくつかの日程の選択肢の一つにすぎなかった。「菅首相が9月解散の意向を固めた」と断定的に伝わり、自民党は選挙結果は惨敗を予想されるだけに安倍前首相をはじめ党の重鎮が「ノー」を突きつけた。この段階で菅首相は解散権を封じられてしまった。

 厳しい情況を打開するための最後の切り札が、9月6日に予定していた党役員人事だった。だが、幹事長候補と目された小泉進次郎環境相は「環境相の続投」を希望し、幹事長就任を固辞した。最終局面で小泉氏は「現職首相としてボロボロになってはいけない」と首相退陣を進言した、と伝わる。

 もう1人の候補だった河野太郎ワクチン担当相に対しては、派閥の領袖、麻生太郎氏が「絶対に受けるな」と強くクギを刺した。萩生田光一文部科学相を要職に就けようとしたが、萩生田氏が所属する細田派からも「動くな」との指令が出ていた。菅首相は、解散権に続き人事権を剥奪されたように周辺には映っていた。

 来るべき衆院選を見据え、要となる選挙対策委員長に二階氏の側近、林幹雄幹事長代理を予定していたが、林氏は「絶対にやらない」と述べ、反発したとされる。二階派内に、菅首相を一貫して支えてきた二階氏を外す人事への怒りと不満が渦巻いていた証左である。

 安倍氏、麻生氏、二階氏による奇妙な三角形のバランス上に乗って政権を運営してきた菅首相は、この3人から見捨てられた。菅政権の崩壊は時間の問題だった。

岸田氏有利の構図にはならない

 自民党総裁選は「ウルトラCの前倒し」(自民党関係者)がない限り、9月17日告示、29日投開票の日程で実施される。当初、選挙戦は菅首相と、8月26日に出馬表明した岸田氏の一騎打ちの構図で進むものとみられていたが、世論調査で次の首相として人気が高い河野太郎氏が、まず出馬の意向を固めた。9月3日、所属する麻生派会長の麻生氏と会談し、河野氏は出馬の意向を伝えた。麻生氏は「賛成はしないが反対もしない」との立場を堅持した。

「麻生―河野の2人の太郎の心理的距離感が、総裁選までの河野氏の行動を制約する」(自民党のベテラン議員)

 ここで注視すべきは、菅首相が「河野氏が出馬した場合、支援する意向を周囲に伝えた」という情報だ。菅首相は河野氏の手腕を評価しており、改革路線を継承してくれると判断している模様だ。麻生氏が賛成しなくても、河野氏は総裁選に出るということだ。麻生派の若手議員が河野支持でまとまれば、それなりの戦いをやれるかもしれない。

 派閥の結束力を対外的に示したい麻生氏としては、「明確に支持する候補を決めない」ことも予想される。河野氏以外の候補を麻生派として推して、その候補がもし負ければ、威信にかかわることになる。

 立候補を表明している高市早苗前総務相は9月3日、記者団に「出馬の意思は変わりません」と改めて意欲を示した。高市氏は現在無派閥で、20人の党所属議員の推薦人を集められるかどうかにかかっている。総裁選は無記名投票だが、「それでも誰が投票したか、わかる」と自民党内ではいわれている。推薦人になれば名前がはっきり出るわけで、負け戦だと、次の衆院選で勝ち抜いても、その後、長く冷や飯を喰う覚悟が必要になる。

 高市陣営の隠し玉は「憲法改正など考え方が近い安倍前首相が支持する」というものだ。「安倍氏の支持で保守票を獲得できれば、と計算している。決選投票に残れば次の展望を開けるかもしれない」(党関係者)との声がある。高市氏は9月3日、BSフジの番組で、終戦の日などの靖国神社参拝は総裁・首相就任後も行う意向を示した。これを安倍氏ならびにその周辺を強く意識した発言と受け取る向きが多い。

 総裁選について「白紙」としてきた石破茂元幹事長は「まったく新しい情況になった。同志と相談してしかるべき結論を出したい」と前向きとも取れる発言に9月3日、軌道修正した。ただ石破派所属議員は17人。必要な推薦人数に3人足りないし、安倍、麻生両氏とは不仲だ。世論調査で2位の石破氏が立候補すれば一番影響を受けるのが岸田氏と見られている。党員・党友の票が、石破、河野の両氏に集まると岸田氏は予想外の苦戦を覚悟しなければならなくなるからだ。

 野田聖子幹事長代行も「立候補したい」と周囲に伝えたが、推薦人20人という大きな壁が立ちはだかっている。他にも立候補を取沙汰されている議員はいるが、岸田、河野、高市、石破の4人に収斂するとの見方が強い。

 最大派閥の細田派、第二派閥の麻生派とも候補者をたとえ一本化できたとしても、緩いかたちでの縛りにならざるを得ない。下手に候補を1人に絞って、その候補が敗れれば派閥が瓦解するリスクが高いからだ。菅首相に煮え湯を飲まされた二階氏が率いる二階派がどう動くかにも関心が集まる。細田、麻生派と同じで軽々に候補者を決められる情況にはない。「二階氏と二階派が一枚岩なのかどうかを見極める必要がある」といった冷めた見方をする他派閥の幹部もいる。

 岸田支持でまとまっている岸田派を除き、どの派閥も金縛りにあった状態が続けば、票が分散することになる。1回目の投票では総裁が決まらず上位2人による決選投票になる可能性も出てくる。

新首相は長期政権になれないのか

 自民党総裁が決まっても、すんなり新首相の選出になるかは不透明だ。退陣する菅首相は「自ら身を引くことで自民党を政権与党として存続させた」という評価だけは得て、政治家生命を絶たれることだけは回避した。総裁選で大きなシコリを残し衆院選になだれ込むと、大きな後遺症を残すこともなりかねない。

 9月3日、菅首相の自民党総裁選への出馬見送りが伝わり、同日午後の日経平均株価は一時、前日比600円を超える急騰となった。終値は584円高の2万9128円。2カ月ぶりに2万9000円台を回復した。株式市場では今秋の衆院選で与党が大敗し政局が流動するリスクは縮小したとの見方が多い。

「総裁選で政権の顔が変わっても、政策の方向性に変化がなければ株高の持続力は限られたものになる」(大手証券会社のアナリスト)

 コロナ対策や経済政策で明確な変化が見られなければ、マーケットは再び失望の淵に沈んでしまう。みずほ証券は「石破政権でなければ株式市場への影響は軽微」とのリポートを出した。昨年の安倍氏の退陣は9月16日。今年もまた9月退陣となった。9月のハプニングはそろそろ打ち止めにしてほしいというのが、マーケット関係者の本音だろう。

(文=編集部)

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