
今年2月、待望のワクチン接種が始まり、新型コロナウイルス収束へ向けて大きく前進するのではないかと、誰もが期待を寄せた。しかし、2回目のワクチン接種後にもかかわらず、コロナに感染する“ブレイクスルー感染”が相次いで報告され、ワクチンへの期待が大きく挫かれた。
さらに、熊本総合病院と国立国際医療研究センターの共同研究によると、ファイザー製ワクチンを接種した医療従事者およそ220人について、2回目接種後の1週間から2週間で抗体量がピークに達し、2カ月後にはその2分の1になっていたという報告があり、国民を落胆させた。
国内外の研究報告から、ワクチンを2回接種後の抗体価が時間の経過とともに低下することは認めざるを得ない。そこで政府は、「ブースター」と呼ばれる、3回目のワクチン接種を検討している。政府は、ブースター接種の前に、希望する全国民に2回目のワクチン接種を終えたい意向を示しているが、現在、ワクチンの1回目の接種を終えたのは全人口の約60%であり、いまだ1800万人もの人が1回目の接種を待っている状況だという。
しかし、2回目の接種完了までのワクチン安定供給も危うい状況であり、そこで検討されているのが「交差接種」である。交差接種とはどのようなものか、函館陵北病院総合診療科の医師でYouTubeチャンネル「YouTube医療大学」でも医療について発信する舛森悠医師に聞いた。
なぜ交差接種が検討されているのか
「コロナワクチンは、いずれの製薬会社のワクチンも、2回の接種が推奨されています。さらに、原則、1回目と2回目のワクチンは同種のものを接種することが推奨されています。これに対し、1回目と2回目で異なるワクチンを接種することを交差接種といいます。しかし、WHO(国際保健機関)は『他のCOVID-19ワクチンと互換性に関するデータはない』と提言していますので、交差接種に関しては慎重に検討すべきと思います」
WHOの提言にもかかわらず、なぜ日本政府は交差接種の有効性・安全性に関して検討しているのだろうか。
「その理由は、速やかに安定したワクチンの供給が見込めないなかで、少しでも早く国内のワクチン接種を普及させるためです。現在、国内生産が可能なアストラゼネカ社のワクチンは供給の目処がたっています。しかし、アストラゼネカ社製ワクチンは、1回目と2回目の接種の間隔を8週間以上あける必要があるので、スピード感としては他社ワクチンに劣るというデメリットがあるのです。そのため、1回目のワクチン接種をアストラゼネカ製で接種し、その4週後にモデルナ社やファイザー社製のワクチン接種が可能になれば、供給が安定していないモデルナ社・ファイザー社製のワクチンを温存しつつ、スピーディーに国内のワクチン接種を進めることが可能になるのではという狙いがあります」