大手キャリアによる携帯料金の値下げ競争がますます激化している。2020年9月に菅政権が発足し業界に携帯料金の引き下げを働きかけたことで、大手キャリアは契約をオンラインに限定した新たなブランドを続々と発表。2020年12月、NTTドコモから「ahamo」、ソフトバンクから「LINEMO」、今年1月にKDDIから「povo」が誕生した。
そんななか、KDDIは今年9月下旬から「povo」を基本料金0円という「povo 2.0」に刷新することを発表。このプランは基本料金が無料で、自身のライフスタイルに合わせてオプションをトッピングしていくというシステムだ。
可能なトッピングは「データトッピング」「通話トッピング」「コンテンツトッピング」の3種類。「データトッピング」のラインナップは1GB/7日間で390円(税込/以下同)、3GB/30日間で990円、20GB/30日間で2700円のほかに、60GB/90日間で6490円、150GB/180日間で1万2980円と、従来の月額制という常識を打ち破るものも用意されている。
だが、KDDIが勝負に出たことは伝わってくるものの、ユーザーにとってどのくらいのメリットがあるのか、いまいちピンと来ていない方も多いことだろう。そこで、今回はITジャーナリストの法林岳之氏に、「povo 2.0」の可能性や格安スマホ界の現状について話を聞いた。
“パートタイム的にデータをトッピングしたい人”にはおトクなプラン
まず、オンライン限定プランの市場の誕生から現在までの流れを整理してみよう。
「だいぶ以前から、業界共通の課題として、契約をオンラインに限定することで価格を抑えたブランドが打ち出せないかという構想はあったようです。そんななかで菅首相からのお達しがあったことで、その構想を大急ぎで形にして発表したという背景があったのではないでしょうか。ですが、タイミング的にもコロナの影響で店舗に人が集まるのは避けるべきというムードでもありましたし、菅首相の働きかけがなくても遠からずオンライン限定プランのリリースラッシュは来ていたのだと思います。
『ahamo』は8月時点で契約数180万件を突破し、次いで『povo』が9月時点で約90万件、ソフトバンクの『LINEMO』が8月時点で50万件以下と、まだマイノリティではありますが、少しずつ契約数を伸ばしているようです。
オンライン限定プランのメリットは、料金が安いのはもちろんですが、お店でやりとりをしないで済むというのも大きいでしょう。ユーザーにとっても店頭で何時間も待つ必要がないし、キャリア側にとってもコストカットができるということで、双方にメリットがあります。ただ、故障などのトラブルが発生したときにお店を頼れないのはデメリットでしょう」(法林氏)
「povo」は今回、同ブランドを基本料無料の「povo 2.0」にリニューアル。法林氏いわく、「povo 2.0」は、海外では普及しているプリペイドSIMカードのシステムをうまく採用したプランだそうだが、ズバリ、「povo 2.0」はおトクといえるのだろうか。
「『povo 2.0』のプランが自身のライフスタイルにハマる人とそうでない人がいるでしょうから、一概におトクか否かを語るのは難しい。例えば、1GB/7日間の料金は390円。これを1カ月分の料金に換算すると4GBで1560円と、やや割高に感じられてしまうでしょう。ですから毎月定常的に使っている人や、通信量が多く大手キャリアの使い放題のプランを使っている人にとっては、あまりメリットがないのです。
逆におトクに使えるのは、パートタイム的にデータをトッピングしたい人。半年間どこかへ出張するなどネット環境が変化する際に、とりあえず180日間150GBの1万2980円のプランを契約してみる、といった使い方はアリでしょう。ほかにも、テレワークでWi-Fi環境の整った自宅から出なくなり、月々のデータがたくさん余っているような方は、3GB/30日間で990円のプランや、60GB/90日間で6490円のトッピングを選んでみてもいいと思います。自分を取り巻く環境に応じて、身軽に内容を変えられるというのがこのプランのメリットであり、そういった自分のライフスタイルにハマる使い方ができればおトクとなるはずです」(法林氏)
「povo 2.0」なら簡単に月々の通信量を変更できるため、テレワークが今後いつまで続くかわからないという方でも、とりあえず契約するという選択を取りやすいだろう。
話題に上がることは少ないが、実は画期的な「コンテンツトッピング」
どうやら、「povo 2.0」をおトクに使うための第一歩として、自身が普段スマホをどのように使っているかを見極めるのが重要なポイントになってくるようだ。
「その見極めが一番大切ですね。特にコロナの流行によって生活が一変し、人によってスマホの使い方に大きな差が出るようになっているため、これを機に一度プランを見直してみるといいかもしれません。
ただし、これが店舗で取り扱いのあるブランドであれば、店頭で自分の状況を教えてもらえたり、ちょうどいいプランを提示してもらえたりもしたのですが、『povo 2.0』の契約はオンライン限定なので、自分で判断するしかありません。とはいえ、確認の仕方さえ間違わなければ、縛りやメールアドレスなどの余計なものがないので、期間限定で契約するという使い方はアリでしょう」(法林氏)
「povo 2.0」の話題でも、これまであまり話題にはあがっていない「コンテンツトッピング」。こちらは、7日間スポーツ専門の定額制動画配信サービス「DAZN」が使い放題のプランが760円、24時間スマホに特化した縦型シアターアプリ「smash.」が使い放題のプランが220円でトッピングできるというものだ。法林氏はこの「コンテンツトッピング」が、実は画期的なのだと力説する。
「通常、1カ月単位で契約しなくてはいけない『DAZN』を、1週間単位で契約できるのはすごいこと。サッカーの日本代表戦の試合は通常1週間で2試合やるというスケジュールですし、ゴルフも大会があると月曜スタートで日曜あがりだったりするなど、スポーツの試合は同じ週に集中することが少なくありません。この仕組みに、『DAZN』の見放題トッピングの7日間という期間はちょうどよくマッチするんですよね。ですから観たい試合がある週だけトッピングするという、無駄のない使い方ができるわけです。
業界的な視点でいうと、1週間だけコンテンツが観られるプランは国内で前例があまりないので、このプランで『DAZN』と話をまとめて来たKDDIはすごいなと思っています。もしかしたら、将来的に『Netflix』や『Amazon Prime Video』の2週間パックが出てきて、年末年始だけ契約する……そんな使い方ができるようになる可能性も十二分にあるでしょう」(法林氏)
では今回の「povo 2.0」の発表を受けて、NTTドコモやソフトバンクが対抗策を出してくる可能性はあるのだろうか。
「すぐに他のキャリアが対抗策を出すのは難しいのではないでしょうか。そもそもこのプラン自体、楽天モバイルが今年1月に発表した、月々のデータ使用量が1GBに満たない場合は月額0円で使用できるという、『Rakuten UN-LIMIT VI』に対抗して出したものだと思われます。ですから、今後同じように楽天モバイルに対抗する形でNTTドコモやソフトバンクが似たようなプランを提案して来る可能性はありますが、新しい料金プランはすぐに作れるものではないのです。今回の『povo 2.0』は、今までにないものを生み出したという意味で業界やユーザーへのインパクトが大きい。もしかすると、今後このスタイルが新しい流れになっていくかもしれません」(法林氏)
軽いフットワークで、その時々に最適なプランを選択したいという方にとっては、「povo 2.0」はおトクに使えるのではないだろうか。
(取材・文=福永全体/A4studio)