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時代が変わっても共通する戦争時のプロパガンダとは

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※画像はイメージ(新刊JPより)。

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから約二ヶ月。

 この二ヶ月、現地からの報道や今後の趨勢への専門家の分析などがニュースやSNSを通してしきりに発信され、毎日が戦争の話題で埋め尽くされている感がある。何が起きているのかを誰もが大まかには把握できる一方で、詳細に分け入ろうとするほど今度は多すぎる情報が邪魔になる。

 それはSNSが普及して、整理されないままの情報が大量に出回るからでもあるし、戦争自体が持つ性質のためでもある。戦争とは武力と武力のぶつかり合いであり、インターネットが行き渡るよりもはるか昔から情報と情報の戦いなのだ。戦争を行う自国の正当性を国内外に印象づけるために、そして敵国を撹乱させるために、戦争にはプロパガンダはつきものである。

「われわれは、戦争を望んでいるわけではない」

 『文庫 戦争プロパガンダ10の法則』(アンヌ・モレリ著、永田千奈訳、草思社刊)は政府やメディアが戦争に至る過程や戦時にいかにプロパガンダを駆使してきたかを例示し、そこに浮かび上がるナラティブの共通点を指摘する。

 たとえば、戦争を始める時に発せられる声明は、時代や国を問わず驚くほど似通っている。そこに共通するのは「平和を望むが、仕方なく戦争をする」というナラティブだ。

 あらゆる国の国家元首、少なくとも近代の国家元首は、戦争を始める直前、または宣戦布告のその時に、必ずといっていいほど、おごそかに、まずこう言う。

「われわれは、戦争を望んでいるわけではない」(P12より)

 第一次世界大戦時の1915年、ドイツ首相は帝国議会で「われわれは決して戦争を望んではいない。帝国の誕生以来、平和な年月を重ねることで、われわれは利益を上げてきた。国家の繁栄は平和のなかにこそある」と宣言した。第二次大戦前夜の1940年には、アメリカ大統領のローズヴェルトが軍備増強のための予算投入の提案時に「われわれが戦争を望んでいないことは、全国民はもちろん、世界中の国々に知れ渡っている」と語っている。

 こうして、戦争が近づいた国の指導者の多くが平和を語り、平和を望んでいることをアピールする。しかし、それでも現実は戦争に突入する。それは、大抵の場合「敵国が先にしかけてきたからであり、われわれはやむをえず、正当防衛もしくは国際的な協力関係のために、いやいやながら参戦することになった」ことになる。

「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」

 何の目的も欲望もなく始まる戦争はない。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻でも、「ウクライナがNATO加盟を諦めないため」「ウクライナに根付いた民主主義に脅威を覚えたため」など、さまざまなロシア側の「事情」が(推測としてではあるが)語られるように、いずれにせよ戦争は経済効果を伴い、地政学的な征服欲を伴う。

 だが、戦争を始める側の真の欲望が公式に明かされることはない。どんな国であれ、国民の納得と協力がなければ戦争はできないからである。

 そこで戦時のプロパガンダは、戦争の目的を隠し、別の名目にすり替えようとする。

 1990年の湾岸戦争では、「不当に侵略された小国クウェートを救援する」という口実で、西側諸国を中心とした多国籍軍はイラクを攻撃したが、西側諸国の最大の目的は政治基盤の確立と石油資源の利権にあったとされる。その真の目的は明かされることはなく、掲げられたのはあくまで「弱者の救済」という時代を問わず共感を得やすい倫理的な主張であった。ちょうどロシアが侵攻の口実として「ロシア系住民の保護」を挙げているように。

 戦時のプロパガンダはこの他にも、敵の卑劣さを喧伝し、自陣の被害を少なく相手の被害は過大に発表し、自国の正義に疑問を投げかける者を裏切り者と断じる。本書で明かされている10の法則を読んでから現在ウクライナで起きていることを見ると、これらの法則が間違っていないどころか驚くほど正確なことがわかるはず。

 2002年に刊行され、今また注目を集める本書。時代や場所や国を問わずあらわれる戦時の「パターン」を知ることは、戦争の本質を理解する一助になるだろう。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。
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