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「データセンターは得体が知れない」住民の反対運動が続出、AI普及の妨げ

文=Business Journal編集部、協力=西田宗千佳/ITジャーナリスト
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「gettyimages」より

 通信量の増大や生成AIの普及などに伴い建設需要が高まるデータセンター(DC)だが、建設予定地では周辺住民の反対運動が起こったり、それによって建設中止になるケースも出始めている。建設中止となる事態が生じた千葉県流山市の担当者は5日付「日経クロステック」記事内で「住民はDCに対して『えたいが知れないもの』という感覚を持っていたのではないか」とコメントしており、周辺住民の“感情”もDC建設の大きなハードルになっているようだ。

 通信端末の進化やデータ通信の大容量化、クラウドの普及などにより通信量は増大。ソフトバンクの推計によれば、日本のデータ処理需要は2020年の6エクサフロップス(1エクサフロップス=毎秒100京回の浮動小数点演算性能)から30年には1960エクサフロップスに増大するという。そのためDCの建設需要が高まっており、政府は一部費用を支援する「データセンター地方拠点整備事業費補助金」を設けてDC建設と地方分散を後押ししている。

 一方、地方自治体でも税収増につながるためDC誘致に積極的な動きがみられる。DC集積地帯となった千葉県印西市はDC誘致で固定資産税の税収が増加し、子育て支援や福祉など行政サービスの拡充に力を入れることで人口増が続いている。また、大規模な建物が建てられない市街化調整区域や第1種住居地域などを商業地域に変更してDC建設を可能にする自治体も出てきている。

 全国各地ではDCの建設計画が進んでいる。ソフトバンクは北海道苫小牧市に将来的に国内最大規模の70万平方メートルに拡張するDCを建設中で、2026年度に開業予定。大和ハウス工業は千葉県印西市に27万平方メートルの「DPDC(ディープロジェクト・データセンター)印西パーク」を30年に開業予定であり、アマゾン・ドット・コム傘下のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は23年からの5年間で日本に約2兆2000億円の投資を行うが、この中にはDC建設費が含まれている。昨年3月にはグーグルが日本初のDCを印西市に稼働させている。

DC設置場所の条件

 一般的には、DCはどのような場所に設置されることが多いのか。ITジャーナリストの西田宗千佳氏はいう。

「DC設置場所の条件として重要視されるのは、まず強い地震にも耐えられる強固な地盤のエリアであること、大量の電力の安定的な供給を受けられることです。また、距離に応じて遅延が長くなり、伝送コストが上昇する傾向があるため、東京や大阪などデータの取扱量が多い大都市圏に近いほうがよいとされます。このほか、海外からの海底ケーブルの陸揚げ局が近くにあるかどうかという点も重視されます」

 ちなみにこれらの条件を満たす千葉県印西市は、DCの集積地帯として知られる。強固な洪積台地として知られ、数十キロ圏内に活断層がなく、海や一級河川からも離れているため、ハザードマップ上は洪水、土砂災害、液状化のリスクが低いと評価されている。通信事業者の相互接続ポイントであるIXP(インターネット・エクスチェンジ・ポイント)の密集地である東京・大手町から目安である50km以内であり、人口密集地である都内から50km以内。海底ケーブルの陸揚げ局が千葉県の南房総にある。そしてDCが同一エリアに集積していることから、電力会社側もその需要に応えるために設備を整えている。

 実際に千葉ニュータウン中央駅周辺には、前出のグーグルやDPD印西パークグーグルのほか、みずほ銀行、三井住友海上火災保険、三菱UFJ銀行、富国生命といった大手金融機関、三菱総研、NTTデータのデータセンターが立ち並び、22年にNECとSCSKも共同で新たなデータセンターを設置している。

住民の反対運動

 全国でDC建設の計画が進むなか、建設予定地周辺の住民による反対運動も強まっている。2月5日付「千葉日報」記事によれば、千葉県流山市の約1.3haの空き地で持ち上がっていたDC建設契約が住民による反対を受けて撤回された。前出「日経クロステック」記事によれば、千葉県柏市や東京都昭島市でも反対運動が続いているという。DCの稼働が周辺住民に影響を与える可能性はあるのか。前出・西田氏はいう。

「もし仮にDCが高い建物の場合は、周囲の住宅に陽があたりにくくなるという日照権の問題が生じるかもしれませんが、それ以外には大きな影響というのはあまりないと考えられます。工場のように排水や煙が生じるわけでもなく、空調設備の騒音もゼロではないでしょうが、工場の騒音に比べればずっと少ない。なので、実害というよりは住宅地にそのような工業施設が建つという景観の問題が大きいのではないでしょうか。

 もともとDCは都心のビルの中や工業地帯など、住宅地とは分離されたエリアに設置されてきましたが、運営事業者側はより最適な場所を求めるようになり、自治体側も税収増を見込んで誘致するようになり、住宅地での建設計画が持ち上がるようになったため、周辺住民との問題が生じているケースが増えているようです」

 DCをめぐるこうした問題の解消につながりそうな新たな技術も生まれつつあるという。

「NTTが開発を進める次世代ネットワーク構想・IOWNを使えば、長距離の離れた場所にある複数のDCを高速通信でつないで一つのDCが稼働しているかのような環境を構築することができます。実用化が進めば、通信の遅延を防ぎつつDC設置場所の選択の自由度を向上させることが可能になるかもしれません」(西田氏)

(文=Business Journal編集部、協力=西田宗千佳/ITジャーナリスト)

西田宗千佳/ITジャーナリスト

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。
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Twitter:@mnishi41

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