今回、日産自動車のテストコースで密かにドライブすることになった。それは、まごうことなき「リーフ」である。だが、外観からして違和感がある。オーバーフェンダーなどで武装しており、明らかに“戦闘力”を高めていることがわかるのだ。
「リーフe+」をベースにし、EM57型モーターを2基も組み込んでいる。駆動方式は前後をモーターでパワー伝達する4WDになった。ついに、4WDデビューなのである。
システム最高出力は227kW、最大トルクは680Nmに達した。あの国内最速の「GT-R」よりもトルクで上回っているというから驚きである。
駆動トルクは前後可変。基本的にはフロント駆動だが、フロントタイヤのグリップの和が崩れた場合に、リアタイヤへ駆動力を伝達することでバランスを整えるのである。これはいわば、GT-R同様の考え方である。「前から後ろへ」と「後ろから前へ」の違いはあるにせよ、前後の駆動トルクを出し入れして挙動を整えるという点では、同様の考え方だ。
振り返ってみれば、日産は1947年に「たま電気自動車」を開発した。その後、現在のリーフに代表されるように、電気開発の歴史は長い。
一方で、4WD制御技術の開発にも積極的だ。GT-Rに採用されている「アテーサET-S」では、前後トルクスプリット技術を完成させ、その後は「マーチe-4WD」や「e-POWER 4WD」などで技術を磨いてきた。リアタイヤの位相反転技術であるハイキャスをいち早く市販化させるなど、シャシー性能の熟成にも積極的である。
そんな日産が、電気モーターと4WD制御とシャシー開発を統合制御させたのが、この「電動駆動4輪制御技術」なのである。
さらに特徴的なのは、発進加速時の駆動トルクを1万分の1という精度でコントロールすることだ。
信号待ちから発進する。アクセルペダルを強く踏み込む。一般的には、電気モーターの強いパワーが加わり、ドライバーの首に強い加速度が加わる。その瞬間にトルクをやや抑え、ドライバーへの不快感を低減させるのである。
加速中も緻密な制御は繰り返される。ほんのわずかな駆動トルクの乱れをセンサーが感知して、安定的な加速が得られるように整える。
実際にドライバーが意識できない微細な範囲で、駆動制御しているのである。無意識のうちに不快感が減っていた、というのが狙いだ。
ブレーキングでも同様で、アクセルオフによって強い回生ブレーキが加わると、ドライバーは減速Gに襲われ、それが不快感になる。それを抑えるために、アクセルオフでの姿勢変化をも抑えるのである。
リーフは平凡なEVモデルでは終わりそうもない。電動駆動4輪制御技術のパイオニアになろうとしているのだ。そのための狼煙が「GT-Rを上回るビッグトルクリーフ」なのだろう。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)