「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
2015年の訪日外国人数が過去最高の1937万7000人(前年比47.1%増)となったことが1月19日、日本政府観光局から発表された。その驚異的な伸びの裏側では、「爆買い」による小売販売額の押し上げ、「爆宿」による東京や大阪のホテル予約の困難さなど、さまざまな現象も生じている。
ところで、昔から外国人買物客の存在が知られた大型商店街が東京都内にある。台東区の「かっぱ橋道具街」だ。飲食店用の器具や食器、サンプルや看板など、なんでも揃うかっぱ橋は、「電器の秋葉原」「衣料品の横山町」とともに「東京三大問屋街」と称される。
現在は商店街全体で約150店、うち100店ほどの道具店が軒を連ねている。大正元年、新堀川(現在は暗渠)にかかる合羽橋の周辺に数軒の道具商や古物商が店を構えたことが道具街の発祥とされており、100年以上の歴史を持つ。飲食業界で働く人向けの商店街として親しまれ、テレビの情報番組で紹介されることも多い。
そんなかっぱ橋道具街も近年、訪れる客層に変化が生じている。今回は、人気店の事例を通して外的環境の変化と、その対応手法を考えてみたい。
商店街のシンボル「コック像の店」が語る、道具街の歴史
東京メトロ・田原町駅を出て、かっぱ橋道具街を訪れる人の目印となるのが、ビルの屋上に置かれた巨大なコック像(通称:ジャンボコック)だ。それが店のシンボルでもある「ニイミ洋食器店」は、同地が道具街となる前の明治時代末期に創業した。同店の歴史は道具街の歴史でもある。
「1907年に、私の曽祖父である新實吉五郎が『新實道具店』として創業しました。吉五郎は愛知県西尾市から上京して、この地で商売を始めたのです。その長男で私の祖父、2代目・善一が食の欧風化をにらみ、20年に『ニイミ洋食器店』に業態を変えました」(4代目・新實孝社長)
「飲食用器具や備品、食器の総合卸・販売」を行う同店の1~3階には、1万点以上の商品が陳列されている。全国各地の飲食店に支持されて成長したが、最近は個人客も目立つ。取材当日に同店を訪れていた若い女性は「初めて店内に入りましたが、いろんな商品があって面白いですね」と話していた。
筆者は80年代から時々この道具街に足を運んできたが、昔に比べて女性客が増えた。外国人の客層も広がり、欧米圏やアジア圏など国籍が多様化した感がある。