日本の料理人も、昔と今とでは時代の流れを感じるという。
「オーナーシェフが減って、雇われシェフが増えました。自分で財布の紐を握るオーナーシェフは、気に入った品をすべて買われますが、雇われシェフが注文しても、後でオーナー経営者から購入本数を減らすよう指示されることもあります」(同)
普段もにぎわう道具街だが、1年で最も人出が殺到するイベントが毎年10月にある。「かっぱ橋道具まつり」だ。南北約700メートルの商店街に、昨年は約40万人が訪れたという。これも今では一般客が楽しむイベントとなっている。
「店頭にあるだけ」という商売はしない
さまざまな人気店を取材すると、「インターネットで買物が簡単にできる時代に、実店舗に来てもらえる工夫が大切」という声を耳にする。ニイミ洋食器店が心がけるのは、「お客さんの期待を裏切らない」ことだという。
「『ニイミの総合カタログ』は電話帳並みの厚さがあり、掲載商品はおよそ8万点あります。店員には勤続50年前後のベテランもおり、お望みのリクエストにほとんど対応できます。もし『こういうものはないか』という要望があり、その商品がない場合でも、産地との太いネットワークを駆使し、国内の伝統と技術のあるメーカーにお願いして特注でつくってもらうこともできるのです」(同)
さらに、道具街ならではの強みをこう説明する。
「当店に在庫がない商品を、当日急いで手に入れたいお客さんには、近くの他の店を紹介することもあります。道具街には、厨房設備・冷蔵庫・冷蔵ショーケース、機械器具や食器、包装用品・容器・装飾品、製菓材料・喫茶材料からサンプル・白衣まで、あらゆる品が揃っています。最近の大型量販店で店員がよく口にする『商品は店頭にあるだけ』という商いはしません。ネット時代でも『かっぱ橋に行けばなんでも揃う』というコンセプトは、変わらないのです」(同)
飲食店開業における食器購入の変化については、新實氏はこう説明する。
「昔に比べて、若い世代が開業しやすくなりました。それを後押しするのが、飲食店が退去した『居抜き物件』の増加です。居抜き物件に出店した店主は、前の店が残した食器をそのまま使うこともある。安い食器で十分という人は100円ショップやリサイクルショップでも買うので、食器は『百均』『リサイクル店』がライバルになった一面があります」
時代とともに食生活の好みが変わっても、外食や自宅での食事を楽しみたい思いは変わらない。ニイミ洋食器店を取材後に道具街を歩き、同店に次ぐ老舗の「釜浅商店」をのぞいたが、個人客や外国人客の姿も目立った。ニイミ洋食器店では今後、プロ料理人を会員として囲い込むことや、若手店主に道具街を知ってもらう「ネット発信の強化」なども検討しているという。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)