東京合羽橋商店街振興組合の副理事長も務める新實氏は、道具街全体と自店における外国人客の傾向をこう説明する。
「どこの国の方か詳しく聞くことはありませんが、道具街の店によって傾向は分かれます。刃物や調理器具を扱う店では西洋系のお客さんが多く、お菓子道具を扱う店はアジア系のお客さんが多いようです。当店は昔から外国人のお客さんも目立ちました。たとえば80年代のエスニックブームの時は、インドやパキスタンなど南アジアの人が多く来店されました。中国系の方も含めて大半は飲食店関係者でした。父の善三郎からも『プロのための街でなくてはならない』と言われ、その教えを意識して商売してきました」(同)
ジャンボコックの裏話も紹介しよう。実はコック像のモデルは善一氏(完成時は会長)だ。善三郎氏(同社長)が、新社屋を建築する際に「ビルを建てるなら、洋食器のイメージを宣伝できるものにしたい」と発案した。ただし、コック像は善一氏の風貌とは異なる。「あまりにも似ていると本人が落ち着かない」とのことで、善一氏が生やしていなかったヒゲを生やしたという。
オーナーシェフが減り、中国人観光客が増えた
例年なら年が明けて、1月の3連休後は客足が落ちる同店だが、今年は客足が落ちない。その傾向は昨年からだが「忙しいわりに売上高は鈍化している」という。
「客層が変わり、外国人観光客が非常に多くなりました。その傾向がはっきり現れたのが、ちょうど1年前の2月。中国の春節で来日された中国人の方の『爆買い』です。それも手伝って、一昨年と比べて昨年は、当店の全体客数は倍増しました」(同)
同店を訪れる中国人観光客のこだわりには特徴がある。
「『これはメイド・イン・ジャパンなのか?』と必ず聞かれます。日本人客の場合、たとえば包丁で『関の孫六』銘なら日本製だと理解できます。でも中国人観光客は、最終的には納得して買われるのですが、日本製だと説明してもなかなか信じてもらえない。そこでお客さんの意向を受けて、包丁の産地である岐阜県関市や大阪府堺市の製造元に連絡して、外箱に『メイド・イン・ジャパン』と入れてもらうよう要請しました」(同)
料理のプロと中国人観光客では買い方も違う。
「包丁の場合、用途別に大きなものから小さなものまであります。プロの料理人は、『この食材を切るにはこのサイズ』という具合に、サイズ別に買われます。一方の中国人観光客は、お土産としての購入です。日本人が海外旅行で同じお菓子をまとめ買いするように、気に入った包丁の同サイズをまとめ買いされることも多いのです」(同)