大塚家具、久美子社長の「経営失敗」で過去最悪の赤字…「購入する客」激減、社長退任要求も
結局12時を少し回って終わった総会で、延べ22人の株主が質問を許された。質問に立ったのは、ほとんどが個人株主のようにみえた。前述したように当社の業績は恐ろしく悪化しているので、「荒れる総会」の様相を呈するのかとも思っていたのだが、それは見事に外れた。
150名ほど出席した株主の総体的な雰囲気や質問の内容から、久美子社長の経営体制に対する「与党的」な株主が8割、「野党的」な株主が2割というのが、私が持った印象である。「野党的」というのは久美子社長の経営に対して批判的、憤慨的ということだ。
決議事項の一つに、今期の株主配当を80円とするというものがあった。これは勝久前会長との経営権争いのなかで、久美子社長が約束してしまったものだ。これについて、「無理をしてそんなに払わなくても」という意見表明が複数あった。
また、年配の女性株主が「私は大塚社長のファンです。がんばってください」とだけ発言して着席したかと思えば、「20年来の株主で、欠かさず総会に出てきた。勝久氏は私たち株主に対して対決的だったが、久美子社長はまことにちがう。私は久美子社長を支持、応援している」とした株主もいた。
野党的な質問としては「いつ黒字化するのか、その年次を示してほしい、そしてそれが果たせなければ退陣してほしい」といったストレートな要求があった。久美子社長は「3月に発表した新『経営ビジョン』を完遂することに力を注ぐ」としてかわしていた。
当面の課題は来店客数
私が発した2つ目の質問は、来店客数と客単価の推移だった。15年3月の株主総会で経営権を握ってから、久美子社長の完全指揮の下で客は増えたのか、金を多く使ってくれるようになったのか。
具体的な数字は挙げなかったが、久美子社長は「客数は15年は増加するも、16年は減少した」と答えた。しかし、「入りやすくした」新宿店や銀座店などの都心大型店では客数は増え、郊外店では落ち込んだ、とも説明した。
客単価については、「買い上げ単価(同一客が一回の購入に使った金額)はあまり変わっていない」との説明がなされた。
さて、この説明を16年12月期の年商20%超減と比べて算数すると、「買ってくれた客が20%減った」ということになる。ここに、久美子社長の苦悩とチャレンジがあるのだろう。
総会前段での「事業説明」セッションで、久美子社長が「高額セグメントから低額セグメントに降りてこようとしたのではない、それが誤解だ」とスライドを使って強調した。そうではなく、「価格帯でいえば全方位を網羅しようとしている」とも説明してくれた。
しかし、会社の基本となるポジショニングをはっきり市場に向かって発信できなかったこと、そして誤解があったとしてもそれを訂正できていないことは、大きな問題だ。会社側からのメッセージによって来店する顧客セグメントは移っていくし、16年度を見ればその母数が減ってしまっている。戦略の失敗といえるだろう。
事態は楽観を許さない
株主からのほかの質問としては、減り続けるキャッシュ・ポジションや積立金の取り崩しなどについての心配もあった。しかし、全体的には「久美子社長がんばれ」という応援的なムードが横溢していて、前述20年来の個人株主が久美子社長へのエールを5分以上にわたって披瀝したときは、久美子社長が涙ぐみそうなっていたと私には見えたし、この発言が終わると大きな拍手が起きた。
さて、20年来ではない株主の私としては「現経営陣の安泰は、社業の安泰を意味しない」という、シビアなものだ。その意味でISSの助言に組する立場である。
大塚家具の経営問題は、父娘対決で話題となってから2年を過ぎて、世間の興味はもう低くなったと私は思っていた。ところが総会を出てきた私は、待ち構えていた報道陣に囲まれ、結局2つのテレビ局と主要経済紙から取材を受けることになった。
大塚家具への世間の興味は続いている。久美子社長、いよいよ正念場の年となっている。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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