三菱自動車が過去最高益でも笑えないワケ リコール続出に国内販売も不振
財務問題も深刻だ。00年と03年の2度のリコール隠しが明らかになり、経営が急速に悪化した。04~06年にかけ三菱重工業、三菱商事など三菱グループに6300億円分の優先株を引き受けてもらってようやく乗り切った。現在残っている優先株は4000億円。頭の痛い問題だ。
優先株の普通株への転換は一部、進んだが、現在でも4000億円分は三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行が持っている。重工、商事は普通株へ転換し、残りの優先株は三菱自動車が買い取り償却することになる。買い取りの原資は、三菱自動車の現預金と新株を発行して市場から調達する。
しかし、優先株を処理するための資金を調達する公募増資のハードルは高い。
三菱自動車のスポンサー探しは、10年にプジョー・シトロエンとの交渉が破談している。12年には中国企業から出資を仰ぐ計画が浮上したが、三菱グループの反対で流れた。三菱自動車の受け皿となるスポンサーも、おいそれとは見つからない。
三菱自動車は9246億円の累積損失の処理のため、資本金と資本準備金(合計で1兆円強)を取り崩すことを決めた。株式を追加発行できるようにするために、定款の変更を今年の株主総会に付議する。
三菱自動車は中期経営計画の最終年度となる13年度中(14年3月期)に優先株の処理と復配のメドをつける考えを示しているが、環境の整備が重要で、はたしてうまくいくかだ。
三菱商事出身の益子氏は、05年に社長に就任した。後任社長には生え抜きを期待する声があるが、もともと三菱自動車は三菱重工の一部門だったルーツを考えれば、西岡喬会長の出身母体である三菱重工が後任社長を出すか、外部からスカウトするしかないだろう。
14年3月期の売上高は、前期比25.6%増の2兆2700億円。営業利益は同48.4%増の1000億円を見込んでいる。円安効果で利益が押し上げられ、過去最高益をあげても、販売不振の解消、財務内容の改善は一朝一夕にはできない。
13年度中に「ミラージュ」のセダンタイプの新車を東南アジアに投入する。ASEAN地域での販売台数を12年度比で2割増の33万台に拡大する。新型のセダンは「ミラージュ」を生産するタイの第3工場から出荷する。
絶好調の自動車業界で、三菱自動車の影は薄い。5月21日の東京株式市場で三菱自動車株は出来高トップの大商いでストップ高(50円高)。22日には一時226円と、07年11月以来の高値となっていた。株価が上向いたことから、公募増資のアイデアが急浮上してきたわけだ。株価上昇も主力株が一服となる中で、低位株に物色人気が集まっただけとの見方がある。
大手自動車銘柄で三菱自動車の株価は際立って低い。マツダだって5月21日には年初来の高値、472円をつけている。ちなみに、いすゞ自動車は918円(5月16日)である。
スリーダイヤのクルマ(新車)を日本で見ることができなくなる日が来る、というのは極論だが、三菱自動車が長い不振のトンネルから抜け出すのはまだ先のことのようだ。
●三菱UFJ信託銀行は既に優先株を普通株に転換
三菱UFJ信託銀は三菱自動車の準主力銀行。保有する三菱自動車の優先株式の一部を普通株に転換した。三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行以外の三菱グループ企業は昨年8月以降、割り当てられた優先株式を普通株へ転換している。
三菱東京UFJ銀行が所有している優先株については、三菱自動車が買い取る方向だ。銀行の企業への出資規制があり、三菱東京UFJは三菱自動車の普通株を多く持てない。三菱自動車が買い取る価格が焦点になる。
三菱自動車は軽トラックなど商用車の新規開発を中止し、生産台数が少なく採算が取りにくいため生産を段階的に縮小する。商用車はスズキから調達する。
三菱自動車は経営再建に向け、優先株の処理と復配に向けて体制作りを急いでいる。商業車の新規開発中止は開発・生産の効率化の一環である。
12年度の商用車(登録車を含む)の国内生産は67000台。軽のミニキャブのトラックとバンは合計で31000台を自社で販売。30000台を日産自動車にOEM(相手先ブランドによる)供給。日産は「クリッパー」シリーズとして販売した。13年度は前年度比2割減を見込んでいる。
富士重工業はトヨタ自動車との提携を機に、軽の自社生産を中止してダイハツ工業からOEM供給を受けている。
三菱自の国内市場での売り上げは売り上げ全体の2割弱にとどまる。そこで日産と共同開発した軽乗用車と電気自動車(EV)に絞り込む。
●PHEV車など3車種、4428台をリコール
6月5日付日本経済新聞は「リコール、販売に影響も」の三段見出しで、プラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」に加えて、6日に発売予定の軽自動車「eKワゴン」のリコール(回収・無償修理)を届け出た」と報道した。
同紙には「三菱自動車のプラグインハイブリッド車『アウトランダーPHEV』などに搭載したリチウムイオンバッテリーの不具合が相次いだ問題で、同社は4日、リコールを国土交通省に届け出た。電気自動車『アイ・ミーブ』、『ミニキャブ・ミーブ』を合わせた3車種計4428台(2009年7月~2013年3月製造)が対象」。6月5日付日経産業新聞によると「駆動用電池の不具合が原因。電池のリコール対応は各販売店で受け付け、名古屋製作所で集中して作業をする。電池の交換に要する時間は14~20日程度」という。
●三菱自動車は戦略車を発売前にリコール
三菱自動車は新型の軽自動車「eKワゴン」のリコールも国土交通省に届け出た。6日に発売予定の「eKワゴン」までリコールを届け出るという異例の事態となった。
新型軽自動車のリコールは三菱自動車の水島製作所(岡山県倉敷市)で4月25日~6月1日に製造した1456台が対象。同社ブランドのeKワゴンが1449台で大半を占める。日産ブランドでつくった「DAYZ(デイズ)」7台も含まれる。いずれも納車前のリコールとなる。
車体後方の上部にあるブレーキランプに塗った潤滑剤の影響で、ランプが本来の位置からずれるおそれがあるという。
三菱自動車は、軽自動車市場でダイハツ、スズキ、ホンダの3強に大きく水を開けられた。挽回策として、日産自動車と折半出資で設立したNMKVで開発した第1弾の車が「eKワゴン」だった。今年度の販売目標は両社合計で15万台。日産の「DAYZ」が10万台、三菱自動車の「eKワゴン」は5万台。2012年度は軽自動車市場全体で前年度比16.8%増と好調に推移したが、日産は同0.7%減、三菱自動車は同20.1%減と大きく落ち込んだ。新型車の投入を機に反転攻勢に出る腹づもりだった。
軽自動車のシェアは日産、三菱自動車の両社で15%程度だが、これを20%程度まで高めるのが狙いだった。
三菱自動車の13年3月期の軽自動車販売比率は54.2%だが、「eKワゴン」の投入で、これを大きく上回り軽自動車メーカーに転換することになる。
国内市場での浮沈を左右する戦略車が発売前にリコールに追い込まれた。納車の遅れや、イメージの悪化で経営への影響は避けられそうもない。
●広報部の姿勢を問う
実は当サイトは5月31日付で『三菱自動車が過去最高益でも笑えないワケ リコール続出に国内販売も不振』という記事を掲載し「電池の発火など不具合がみつかった3車種のリコールを国土交通省に届け出た」と書いた。すると三菱自動車の広報部から「国土交通省にリコールは届け出ておりません。訂正願います」とのメールを受け取り、「国交省に届け出る方針」と変更した。
ところが、6月4日になって同社はリコールの届け出を行った。果たして1週間も経たない間に、会社の方針が変わったのか? 当初からリコールの届け出をする予定だったのではないのか? メディアでは「回収・無償修理するための部品が揃ったので、リコールを届け出た」と報じられているが、会社の大きな方針がコロコロ変わるとは思えない。リコールといった重要な決定は特にそうである。
にもかかわらず「リコールは届け出ておりません。訂正願います」と言ってくる。だったら、リコールを届け出た段階で、「訂正願いますと申しましたが、本日、リコールの届け出をいたしましたのでご連絡します」と言ってくるのがマスコミ世界の常識、いや、誠意というものではないのか。どういう姿勢と経緯で訂正を求めてきたのか。三菱自動車の広報部に問う。
(文=編集部)