有名プロ野球選手も多数常連の「聖地」居酒屋あぶさん、30年以上ずっと繁盛の秘密
つながりを大切にした結果、紹介客が多い
前述した「あぶさん」の店名の由来だが、これは水島氏の懐の深さによる。
「もともと水島先生の草野球チーム『ボッツ』に入ったのがきっかけです。この店を出す前、私は近くにある焼肉店『羅生門』の店長として働いていました。そこのお客さんがボッツのメンバーで、『メンバーが足りないから入ってよ』と言われたのが最初で、もう40年近く前です。野球好きにとって、水島先生と一緒にプレーができるのは夢のような話です。それから何年かして、独立して店を開業しようと思い、先生に『“あぶさん”の名前を使っていいですかと』聞いたら、『がんばれよ』と許可してくださったのです」(石井氏)
それだけでなく、開業日には水島氏が江川投手を連れてきてくれたという。かつて「ボッツ」は草野球界の強豪として名をはせた。石井氏の若き時代、もうひとつの強豪だった「たけし軍団」とも頻繁に試合を行い、北野武氏(ビートたけし)の知己を得たのも大きい。
「たけしさんは、店の開業当時にテレビやラジオで店名を宣伝してくれました。そのおかげで野球ファンが来てくださるようになり、会社員なら同僚や取引先を連れてきたりして、お客さんの輪が広がっていったのです」(同)
いわば“人脈居酒屋”ともいえよう。開店後10年余りは、近くにフジテレビ本社もあった。今でも広告関係や写真事務所などが多い場所柄、メディア関係者のお客も目立つ。
居酒屋なので、アルコールメニューの裏話も紹介しよう。生ビールはサッポロだが、瓶ビールは、サッポロ、アサヒ、キリン、サントリーを置き、缶ビールでオリオンビールを置く。つまり国内の主要野球場のビールも味わえるのだ。日本酒や焼酎に宮崎銘柄が目立つのは、店主の出身地ゆえだ。
毎日変わらず、野球談議を肴にお客が集まり、時に店主が話の輪に加わる。料理メニューはしっかりつくる。いわば「凡事徹底」の精神が、この店を30年続く人気店にしたのだろう。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)