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〔金利レーダー〕決め手欠く7月利上げ論=賃上げ波及も消費低迷、リスクは円安

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 「入手する経済・物価・金融情勢のデータ次第だが、場合によっては十分にあり得る」。日銀の植田和男総裁は6月の金融政策決定会合後の記者会見で、7月の追加利上げを排除しない考えを示した。その後に明らかになった経済統計などの判断材料をみると、賃金・物価関連は上昇基調をたどる一方、節約志向の高まりで個人消費が低迷する「まだら模様」。利上げを強く後押しする決め手に欠く。ただ、会合にかけ一段と円安が加速すれば、物価上振れリスクから利上げ論が強まる可能性もある。

 日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業非製造業の業況判断指数(DI)は、コロナ禍で経済活動が制約された2020年6月以来、4年ぶりに悪化した。物価高で消費者の節約志向が高まり、小売りのDIは12ポイントの大幅悪化となった。

 半面、短観では人々のインフレ期待の高まりが示された。企業の販売価格見通し(全規模全産業ベース)は1、3、5年後のすべての区分で前回に比べ上振れした。物価見通しも3、5年後で上方修正され、2%超の上昇を維持した。

 賃金上昇と消費低迷という国内経済を巡る明暗は8日に開かれた支店長会議でも浮き彫りとなった。北海道、四国では、物価高による節約志向の強まりから消費が鈍化し、景気判断を引き下げた。

 これに対し、賃金については多くの支店が「中小企業でも昨年を上回る、または高水準だった昨年並みの賃上げの動きに広がりが見られる」と報告。深刻な人手不足を背景に賃金引き上げの動きが全国に波及している。

 日銀は「消費は腰折れする状況ではない」と説明するが、旺盛なインバウンド(訪日客)需要が支えているのは明らか。その証左に、インバウンド需要をカウントしない国内総生産(GDP)の個人消費は、4四半期連続でマイナスが続くなど異例の事態となっている。

 ある日銀幹部は「今後、賃上げや定額減税の効果もあり、消費は持ち直すとの見方を変える必要はない」と見通す。確かに、8日に公表された5月の毎月勤労統計では、日銀が重視する共通事業所ベースの所定内給与は前年同月比2.7%と伸びが加速した。ただ、給与の伸びは物価上昇に追い付かず、実質賃金は1.4%減とマイナス幅が拡大。日銀が追い求める「物価と賃金の好循環」は実感に乏しいのが実情だ。

 また、7月会合では国債買い入れ減額の具体的な計画を決める。追加利上げを同時に実施するならば、あらかじめ減額規模を市場に織り込ませてショックを和らげる手だてを講じるのが常道だ。しかし、日銀が債券市場参加者会合に先立って実施したアンケート調査に関する資料では、国債買い入れの減額規模について「幅広い意見があった」と説明。具体的な買い入れ規模を巡る意見も「最終的にゼロ」「月間2兆~3兆円」「月間4兆円」などと、偏りなく記載されており、むしろ日銀は減額に関するコンセンサスができるのを避けたようにもみえる。

 減額のコンセンサスがないまま追加利上げも同時に行えば、長期金利が急騰するリスクが高まる。このため、SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは「7月の追加利上げの可能性は低下したと言えるかもしれない」との見方を示す。

 もっとも、7月会合にかけて円安が加速するようだと追加利上げ論が勢いを増す可能性も否定できない。日銀が10日発表した6月の国内企業物価指数は前年同月比2.9%上昇。輸入物価指数も円ベースで前年同月比9.5%上昇と、円安の進行で16カ月ぶりの高い伸びとなった。

 6月会合では、1人の政策委員が「コストプッシュを背景とする価格転嫁によって物価が上振れる可能性もあり、リスクマネジメントの観点から金融緩和のさらなる調整の検討も必要だ」と主張。円安で物価が上振れるリスクが高まれば利上げを検討すべきだと強調した。

 仮に7月利上げを見送れば、次回会合は9月19~20日。自民党の総裁選が9月下旬に行われるため、スケジュール的に次回会合での政策変更は困難となることも予想される。10月以降への先送りを嫌えば7月利上げが選択肢になるだけに、会合に向けた為替相場の動向や日銀からの情報発信が注目される。(経済部・宇山謙一郎)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/07/11-14:30)

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