しかし、このダイエット法は多くの危険をはらんでいる。なぜなら、炭水化物はたんぱく質、脂質と並んで、体に必要な3大栄養素の一つだからだ。炭水化物をまったく摂取しなければ、かえって健康を害することになる。
しかも、十分な栄養管理をするわけでもなく、「炭水化物さえ摂らなければ、ほかのものはなんでも食べてよい」という誤った考え方に基づいて食生活を送っている人が多い。
炭水化物は消化吸収されて糖に変わり、体や脳の活動エネルギーとなる。したがって、炭水化物が不足すれば、脳や体の働きに悪影響を及ぼすことになる。具体的には、集中力が落ちて勉強や仕事の効率が悪くなる。筋力が落ちて運動するのが億劫になる。また、体は糖の代わりに脂肪を分解してエネルギーにするため、その際にケトン臭を発生する。いわゆるワキガの元だ。ケトン臭は口臭や汗、尿などのにおいも悪化させる。このような害を避けるためにも、炭水化物はある程度食べるべきだ。
では、なぜ炭水化物抜きダイエットは、ここまではやったのだろうか。炭水化物は、一般的な食事のカロリーの50%を占めるといわれており、これを制限することで簡単に摂取カロリーを抑えられるからだ。また、炭水化物を多く食べると脂肪になりやすいため、これを防ぐ効果もある。実際に炭水化物を制限すると、極めて簡単に体重が落ちる。そのため、「炭水化物ダイエットは有効」という話が広まってしまったのだ。
だが、この炭水化物抜きダイエットによって痩せた場合、リバウンドしやすいという指摘もある。なぜなら、炭水化物が不足すると体は「飢餓状態」だと判断し、かえって脂肪を蓄えようとするのだ。一時的に体重が落ちても、脂肪がつきやすい体質になってしまっては元も子もない。
さらに、炭水化物を摂らない食事を実践しようとすると、肉や魚などのたんぱく質の摂取割合が増えることになる。動物性たんぱく質が増えると、胃腸などの消化器系や、腎臓にも負担がかかる。
このように、炭水化物を抜くのは多くのデメリットがある。そもそも、ある栄養素を制限したり、一つの食品のみをひたすら食べるといった偏った食事は、健康を害する可能性が高い。どうしても炭水化物を制限する必要がある場合、お米の摂取量を1~2割減らす、白米を玄米に代えるなど、現在の食生活を「少し改善する」程度にとどめるといいだろう。
(文=豊田美里/管理栄養士、フードコーディネーター)