ライブ・コンサートについては、クラシックに限らず、それぞれに好きなジャンル、好きな曲を聴くことが“Well-Being”を上げるそうです。なかには、「聴くだけでなく、実際に楽器を演奏してみたい」という方もいるのではないでしょうか。実は、これこそ適度なストレスを受ける効果的な方法なのです。
チューリッヒ大学の心理学者、ルッツ・ヤンケ氏は、楽器を習うことにより大人も子供も知能指数が7ポイント上がったという研究結果を発表しました。これは、高齢者にも有効であり、65歳以上の方々に4カ月間、1週間に1時間だけ楽器を弾かせるという実験をしたところ、脳が大きく変化することもわかったそうです。
楽器を弾くためには、指先を動かすので、手の運動をつかさどる部分の脳が発達するのは当然とはいえ、記憶や聴力をつかさどる部分にも変化が見られたそうです。多くの研究結果で、音楽によって認知能力の高まりに効果があることが認められています。
このような効果により、日本認知症予防学会が「楽器演奏が認知症予防に良い」と報告をしていることは、皆様もどこかで耳にしているかもしれません。
さらにヤンケ氏は、演奏することは外国語の習得にも効果があると言っています。これは、演奏により記憶や言語機能をつかさどる部分の脳を成長させる効果があるからですが、それだけではなく、他人の感情を感じる能力の向上にも役立つそうです。特に演奏家は、声を聴くだけで相手の感情を正確に理解する能力があるそうです。
さて、演奏家は、仕事中はずっと演奏をしているので、言葉で話すよりも楽器を演奏している時間のほうがはるかに長いのが実情です。普段無口な方なのに、楽器では雄弁に演奏する方もいますし、むしろそのような方が多いくらいです。僕も、話し声でなく楽器の音で相手の感情がわかるような気がするときがよくあります。オーケストラのメンバーは、長年ずっと一緒に演奏している“共同体”のようなものなので、無意識のうちに仲間がどんな気持ちで演奏しているのか、その音色でわかるのだと思います。
音は、どこを向いていても耳に入ってくるので、あっという間にオーケストラ全体に伝わって、感情がひとつにまとまり感動的に演奏できるわけです。そのオーケストラの音を、ど真ん中で聴いている指揮者は、至福の時間を過ごしているといえます。
(文=篠崎靖男/指揮者)