三つ目は、ダイエット中の人は、食事を日々のカロリー摂取量で考える傾向があります。一日のカロリー摂取量に上限を設定しているので、ひとたびそれを超える量を食べてしまった場合、その日は「終わってしまった」のであり、抑制する目的が失われ、さらに食べてしまうのです。
「どうでもよくなる効果」は、高カロリー食品の食べ過ぎだけでなく、カロリーを摂りすぎたという思い込みによっても生じます。ポリヴィらは、ピザのスライスを食べてもらった後に、クッキーを食べてもらうという実験からそのことを確認しています【註3】。実験では、どの被験者にも同じ大きさのピザを食べてもらったのですが、周りの参加者のピザの大きさを変えることで、大きさの感じ方を操作しました。つまり、周りの参加者のピザが大きい状況に割り当てられた被験者は自分のピザを小さい(カロリーが低い)と感じ、周りの参加者のピザが小さい状況に割り当てられた被験者は自分のピザを大きい(カロリーが高い)と感じるように仕向けたのです。その結果、ダイエット中の被験者が食べたクッキーの量は、大きいと感じるピザを食べたときに、ダイエットをしていない被験者よりも多くなり、単なる知覚からも「どうでもよくなる効果」が発生することが明らかにされました。
「どうでもよくなる効果」は、どのようにゴールと関係するのか
「どうでもよくなる効果」は、ダイエットというゴール達成の失敗です。このような失敗が起きる原因を探るために、コクランとテッセルはゴールの性質に問題があるのかどうかを検討しています【註4】。ゴールの性質については、先行研究においてパフォーマンス向上に影響を及ぼすことが報告されている複数のゴール要素に着目しました。
一つ目の要素は「ゴールの難しさ」で、先行研究からは困難なゴールはパフォーマンスを向上させることが示されています。コクランらは、ダイエットは実行可能性が高いものの、難しいというイメージもあることから、この要素では失敗の原因を説明できないとしています。
二つ目は「ゴールの具体性」で、先行研究からは具体的なゴールはパフォーマンスを向上させることが示されています。ダイエットというと、通常は体重を減らすという「最終目標」とカロリー摂取量を制限するという日々の「副目標」の設定を意味します。つまり、ダイエットには、カロリー摂取量制限という具体的な副目標があるので、この要素では失敗の原因を説明できないとしています。