まずは、論文を作成する過程で『Cry it out』で効果がなかった事例は意図的に除外してしまっているのではないかということ。さらに、乳幼児期の子どもが泣いて親に訴えかけているのに、これを無視してしまうというのは、子どもの心理にのちのち大きな影響を与えてしまうのではと懸念されていることです。
数年前に、アメリカ小児科学会に掲載された論文で『Cry it out』で夜泣きが解消された子どもをその後、5年間にわたって追跡調査したデータを発表したものがありました。心理的な影響はないとその論文では結論づけているのですが、それだけで反発の声がなくなったわけではありません」
反発の声があったとしても、そこまでしっかりと効果が確認されているのなら、なぜ日本では一般的にならないのか。
「まず、理由のひとつに住環境があると思います。欧米ほど大きな家に住んでいない方が多い日本では、子ども、しかも赤ちゃん用の部屋を用意するというのはなかなか難しいですよね。それに『Cry it out』をやってみたところで、子どもが夜泣きをしても無視しないといけないわけですから、家々が密着している日本ではかなりご近所の目が気になってしまいます。
また、日本の親は特に、赤ちゃんの泣き声に対して非常に弱いという印象を持っています。何かをしてあげなきゃという気持ちになってしまうし、泣かせっぱなしにすることに対しての罪悪感も強く持ってしまうのです。
そもそも、日本の夜泣きがひどい子どもの場合、子どもにしっかりとした眠気がつくられていないのに寝かされていたり、一日の活動と休養のバランスといった生活リズムがつくられていないことが理由であることが多いと感じています。
欧米諸国の場合、親と子どもの生活時間は完全に別のものと考えられていて、『20時には子どもは寝かせて、その後は大人の時間』といったように、生活のリズムが子どもに適切な時間帯で整えられている場合がほとんどです。
日本の家庭では、添い寝の習慣もあり、大人と子どもの生活時間の区別がつきにくく、特に赤ちゃん時期は大人に引きずられ、赤ちゃんらしい生活が送れていない場合も多くあります。その場合は『Cry it out』を試すより先に生活リズムを整えてあげる必要があるでしょう。生活リズムが整うと睡眠が安定し、夜泣きが自然と解消する場合も多くあります。ですから、私たちの団体としても夜泣き解消の第一選択として『Cry it out』をオススメしてはいません」
乳幼児突然死症候群を防ぐ
「Cry it out」には、同室で子どもの様子を見ないという点でSIDSやうつぶせ寝による窒息のリスクもあると思われるが、この点は海外ではどのように捉えられているのだろうか。
「日本では保護者が添い寝をしたり、ベビーベッドを使ったとしても子どもを目の届く範囲に置くことで、SIDSやうつぶせ寝による窒息のリスクに対応していますが、欧米では違った捉え方をしています。