薬物依存症に「完治」という言葉はない?
さらに、同じ対話形式の治療法に「当事者ミーティング」がある。薬物依存症患者が集まって複数人で話し合うのだが、グループのなかには薬物から何年も離れることに成功している人もいれば、刑務所から出てきたばかりの人もいるという。
「認知行動療法と当事者ミーティング。どちらにも共通しているのは、自分と同じようなトラブルを抱えている人と話せるということです。それにより、『薬物依存で困っているのは自分だけではない』『孤独ではないんだ』と思えるようになるのです」(同)
三宅氏によれば、薬物依存症には「完治」という言葉はないという。確かに、清原も逮捕後初のインタビューとなった昨年12月29日放送の『ニュースキャスター超豪華!芸能ニュースランキング2016決定版』(TBS系)のなかで、「二度と手を出さないとは言えない。言い切れるのは自分が死ぬとき」と語っていた。
一時期薬を断つことができたとしても継続した治療や回復活動が必要になるのだが、この「継続して治療を受け続ける」ことこそ、薬物依存症の治療でもっとも困難なことといわれている。
「どの施設で薬物依存の治療をするにしても、基本的に数カ月から数年単位で治療プログラムが組まれています。そして、治療を受ける患者に一番多いのが、最初のプログラムだけをこなして、途中で治療をやめてしまうケース。ある程度わかったと思って安心してしまうようですが、そのタイプの人は間違いなく再び薬物に手を出します。根気よく、地道に治療を続けることが、薬物をやめる近道です」(同)
医療そのものは日々進化しており、最新医療技術も発達し続けている。しかし、こと薬物依存に関しては、昔と同様に、他者との会話を通じて心をケアしていくアナログな治療方法が有効なのだという。
日本に足りない薬物依存症患者の「受け皿」
条件反射制御法や認知行動療法は、日本だけではなく世界中で採用されている治療法だ。ただし、欧米諸国の薬物依存症の患者数は、日本の比ではないくらいに多い。そのため、日本の薬物依存症の治療法が「遅れている」との見方もある。
「確かに、治療における欧米諸国との明確な差が昔はあったかもしれません。しかし、今は医療機関も私たちのような民間施設もプログラムの充実に努めており、少しずつ差は埋まってきていると見ることができます。ただ、明らかに遅れているのは、薬物を断った人たちの『受け皿』。欧米は薬物依存症患者の数も多いですが、薬物を断った人も多いのです。そのため、元依存症患者たちによるイベントも盛んに行われ、実社会への復帰を積極的に後押ししています」(同)