アスタキサンチンは赤色野菜に含まれるベータカロテンの仲間なので、健康増進作用があるものと推定され、さまざまな研究が行われてきました。
アスタキサンチンの構造から抗酸化作用があることが推定され、揚げ物などに含まれる過酸化物による生体成分の損傷を防いだり、紫外線による細胞の損傷から皮膚や目を守ったりするのではないかと考えられています。抗酸化作用の結果として悪玉コレステロール(LDL)の抑制、動脈硬化の改善、糖尿病予防などの作用も期待できます。
サクラエビ30~100gを10日間以上、健康な男性が食べ続けた実験結果によると、血液をサラサラにする効果やLDLを下げる効果が若干見いだされましたが、それらの病気の患者がアスタキサンチンを摂取することによって回復することを示す明確な臨床試験結果はいまだ見いだされておらず、今後のさらなる研究が必要です。
一方で、紫外線障害の抑制作用については、いくつかの良好な実験結果が出ています。たとえば、目の遠近調整機能の改善や目の筋肉をほぐす作用、裸眼視力の改善、コンピュータの画面を見続ける仕事をしている人の眼精疲労自覚症状改善、網膜毛細血管血流改善などです。
いずれの実験においても副作用は認められておらず、安全性は高いことから、アスタキサンチンを基本構造として、さらに効果を高めた新たな医薬品の研究なども期待できます。
現代社会では、多くの人が仕事時間の大半をコンピュータやスマートフォンの画面を見て過ごすことによって、過度に目に負担がかかる生活をしています。「目が疲れたかな」と思ったときには、サプリや目薬ばかりに頼るのではなく、旬の食材で目の疲労を回復するのもいいかもしません。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ グループリーダー)
【参考資料】
「『健康食品』の安全性・有効性情報」
『カリカリベーコンはどうして美味しいにおいなの?食べ物・飲み物にまつわるカガクのギモン』(化学同人/Andy Brunning著、高橋秀依、夏苅英昭訳)
『マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-』(共立出版/Harold McGee 著、香西みどり監訳、北山薫、北山雅彦訳)
『食べ物はこうして血となり肉となる~ちょっと意外な体の中の食物動態~』 野菜を食べると体によい。牛肉を食べると力が出る。食べ物を食べるだけで健康に影響を及ぼし気分にまで作用する。なんの変哲もない食べ物になぜそんなことができるのか? そんな不思議に迫るべく食べ物の体内動態をちょっと覗いてみよう。