入院時に医師が多数の、あるいは高額の検査や処置を指示することが、必ずしも良質な医療になるとは限らないことが新たな研究で示唆され、3月13日付「JAMA Internal Medicine」に掲載された。
医療費を多くかける医師により治療を受けた患者で、ほかの患者と比べて再入院率や死亡率に差はみられなかったという。「医療費が多ければ経過が良好というわけではなかった」と、研究の上席著者である米ハーバード大学医学部のAnupam Jena氏は述べている。
同じ病院内でも医師による医療費の差が40%以上あった!
米国では医療費に地域間や病院間で大きなばらつきがあることは知られていたが、同じ病院内での医師による医療費の差と患者転帰について評価したのは、今回の分析が初めてだという。
病棟医(入院患者を専門に治療する医師)の間で、入院1件あたりの補正支出の平均には最も高い医師と低い医師で40%を超える差がみられた。
医師間の支出差をもたらしている原因は、完全にはわかっていない。
研究著者で米ハーバード大学T.H.Chan公衆衛生学部(ボストン)の研究員であるYusuke Tsugawa氏は、「偶然の可能性もあるが、経験の少ない医師が、経験不足を埋めるために多数の検査や画像診断を指示している可能性もある」と説明している。
無駄な支出がどのくらい発生しているかは不明だが、ウイルス感染症に対する抗生物質の処方や慢性腰痛に対するMRI検査など、「価値の低い」サービスを洗い出すことが重要だと同氏は話す。
今回の研究では、65歳以上のメディケア加入患者のうち非待機的入院症例を無作為に抽出し、医師ごとの平均医療費を調べた。メディケアとは、高齢者および障害者向け公的医療保険制度で、対を成すのが低所得者を対象としたメディケイドだ。
2011年と12年のデータから医療費を算出し、13年と14年の患者転帰に当てはめた。なお、比較の際に異なる期間を用いたのは、医師がある年に診た患者の重症度が、医療費の推定額に直接的に影響しないようにするためだという。
その結果、単一の病院内での医師間の支出差は8.4%と考えられ、病院間の支出差の7%よりも大きいことが判明した。一方、医療費の高さは転帰の向上にはつながらず、医療の質を示す主な指標である30日以内の再入院率と死亡率のいずれにも差は認められなかった。
著者らは、無駄な医療費を削減するには、病院だけでなく医師を対象とした対策が有効との考えを示している。
米国のChoosing Wisely(賢い選択)キャンペーン
メディケアでは19年から、医師の実施した医療の費用対効果により報酬を支払うとしており、病院に対しては疾患ごとの包括払い制度の導入も検討されている。
米国の医療費専門家である米ジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生学部(ボルチモア)教授のGerard Anderson氏は、著者らの見解に同意し、医師による医療費全体を見直すべき時期に来ていると指摘している。
米国では10年ごろから、「米国内科試験委員会:American Board of Internal Medicine(ABIM)」が中心となって、不要であるばかりか有害でさえありうるような治療介入の一覧を示すChoosing Wisely(賢い選択)キャンペーンが始まり、60以上のアメリカの専門機関が14年末までに一覧を公表する動きとなった。
また、イギリスは国家戦略として、死亡の増加につながる不要な抗精神病薬の使用を低減してきたことを13年のG8認知症サミットで報告している。
もちろん、こうした医療費の無駄をなくす動きは日本でもわずかながら出始めているが、国民皆保険制度とその基本となるフリーアクセスの保障と医師の応招義務があるため、非常に多い外来の受診数軽減のほうへと改善点の軸足が移されてきた。
医療費削減にはまず医療資源の効率的な役割分担と患者の振り分けだ。
16年4月から始まったのが、大病院を紹介状なしで初診を受ける場合は5000円(歯科の場合は3000円)以上、他の病院・診療所への紹介を受けたにもかかわらず、再度同じ大病院を受診する場合は2500円(歯科の場合は1500円)以上の特別の料金を、診察料とは別に必ず支払う制度の導入もそのひとつだ。
しかし、初診負担額が数千円増えたところで患者の流れを決定的に変えるような効果を生み出してはない。
現状の国民皆保険制度を維持していくのであれば、今回の調査のよう医療費の対費用効果や無駄な医療の洗い出しや公表など、医療の提供側のしっかりとした評価や検証が必要だ。
(文=ヘルスプレス編集部)