バリウム検査、なぜ発がんの危険&がん断定不可なのに実施?初めからピロリ検査しない事情
よくいわれているのが、胃カメラよりバリウムのほうが費用が安いということです。実際に保険点数で見てみると、胃カメラは1140点(1点=10円)、バリウム検査は326点となっています。また胃カメラは医師しか操作できませんが、バリウム検査はレントゲン技師も行うことができるので、検査の人件費という点でもバリウムのほうが安く抑えることができます。
しかし、どちらでも胃がんが見つけられて、どちらかを選ぶというのなら費用のかからないバリウム検査に軍配が上がるのでしょうが、そもそもバリウム検査では胃がんは見つけられないのです。
「はじめから胃カメラにしてしまうと技師さんの仕事がなくなってしまう」とか、すでに導入されているアトラクション並みの造影装置(時には移動バス)の購入費用が高額で、相当数の検査をこなさないと元がとれないからやめられないといった話も聞いたことがあります。つまり、色々な利権が絡んでいるのが原因との指摘があるようです。
さらに、苦痛を伴いながらバリウム検査をして、「疑い」があれば「断定」のために胃カメラをしなければならないのです。
どちらかをしなければならないのなら、一度で済む胃カメラを選択したいところですが、冒頭でもお伝えしたとおり、「ピロリ菌に感染していない人は、ほぼ胃がんにはならない」のだとしたら、「まず胃カメラ」というのもおかしな話です。
バリウム検査を受けるか胃カメラをするかの議論の前に、ピロリ菌に感染しているかどうかを調べるほうが先でしょう。しかも、ピロリ菌検査は内視鏡だけでなく、採血や検尿、呼気検査、検便でも調べることができるので、苦痛もなく時間もかかりません。
現在では、ピロリ菌の感染がわかる胃がんリスク検診(ABC検診)を取り入れている自治体もあります。ABC検診は、血液検査だけで「ピロリ菌感染」と「胃粘膜萎縮の程度」がわかる検査です。この組み合わせによって胃がんのリスクの判別が可能になります。さらに、内視鏡検査を受けることで効率よく早期がんを発見することができるのです。
胃がんのリスクを極力減らすために、「ピロリ菌陽性」と判定されれば、ピロリ菌の除菌治療を行うことになるわけですが、ではピロリ菌除去にリスクはないのでしょうか。そこで次回は、「ピロリ菌除去のリスク」について考察します。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)