夏休みの終わりの時期に毎年、筆者が楽しみにしているのは、NHKラジオの『夏休み子ども科学電話相談』です。子どもならではの素朴で本質を突いた質問に戸惑う専門家の“迷回答”が見ものです。
ある日の放送で、「カマキリは共食いするのに、どうしてヒトはしないのですか?」という子どもの相談に、回答者の先生は「ヒトは物事を隠れて行うという知恵があるからね」と答えました。この回答を聞いて子どもは「せんせい……」と言ったきり黙ってしまいました。
確かに、ヒトでも飢餓など極限状態に陥ったときに、共食いをした例はありますから、「絶対に共食いしない」とも言えず、先生も回答に困ったのでしょう。
また、子どもの相談によって、今の食品がいかにインチキであることがわかってしまった例もあります。
8月下旬の同番組で、「100円硬貨をソースで磨くとピカピカになりますが、どうしてですか?」という小学校2年の女の子の相談に、回答者はこう説明しました。
「100円玉が褐色になっているのは酸化銅のせいですが、ソースに含まれている酢酸が酸化銅を溶かすのでピカピカになるんだよ。マヨネーズやトマトケチャップでも同じようにピカピカになるよ」
これに対し相談者の女の子は、「しょう油でもなるよ」と言いました。すると、回答者は「それはおかしいな。しょう油には酢酸は含まれていないから、間違いじゃないかな」と言うと、女の子は「本当だよ。おしょう油でもピカピカになったよ」と主張しました。
これに困惑した回答者は「そうか。先生にはわからないな。何か化学変化を起こしたのかな。しょう油の件は調べときます」と答え、この相談はこれで終わりました。
この回答者は化学の専門家でしたが、しょう油に酢酸が含まれていないと思っているのは当然のことです。ソース、マヨネーズ、トマトケチャップは材料に酢を使いますが、しょう油は大豆、小麦、食塩からつくられます。酢は使いませんから、しょう油に酢酸が含まれているはずはないのです。
発がん性の恐れも
ところが、実際は酢酸が含まれているしょう油が数多く出回っています。酸味料や有機酸として酢酸ナトリウムが添加されているのです。JAS規格(日本農林規格)では、しょう油に使用できる食品添加物が設定されています。たとえば、濃い口しょう油は、次のようになっています。
・甘味料(アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出物、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、D-ソルビトール)
・着色料(カラメル色素1、3、4型)
・保存料(安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル)
・増粘安定剤(キサンタンガム、グアーガム、デキストラン)
・酸味料(クエン酸、クエン酸三ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、リンゴ酸ナトリウム)
・調味料<アミノ酸>(DL-アラニン、グリシン、L-グルタミン酸ナトリウム)
・調味料<核酸>(5’-イノシン酸二ナトリウム、5’-グアニル酸ナトリウム、5’-リボヌクレオチド二ナトリウム)
・調味料<有機酸>(クエン酸三ナトリウム、コハク酸、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム)
・調味料<無機塩>(塩化カリウム)
・製造用剤(D-ソルビトール)
・日持ち向上剤(アルコール、チアミンラウリル硫酸塩)
・pH調整剤(乳酸)
これらの食品添加物が全部使われているわけではありませんが、保存料は3種、増粘安定剤は2種、有機酸は2種使っていいことになっています。
100円硬貨をピカピカにする酢酸ナトリウム、氷酢酸はエチレンの直接酸化によって工業的につくられた添加物で、酸味料として使われます。また、醸造酢に似た味で安価のため、食酢の代用品としても激安食品などに利用されています。氷酢酸は酢酸の99%濃縮液のことで、強い刺激性と腐食性があります。また、中枢神経への作用も指摘されています。
普通、氷酢酸を希釈した酢酸が食品として使用されますが、しょう油では氷酢酸をそのまま使ってもいいのです。氷酢酸、酢酸も最終食品に残留してはいけないことになっていますが、酸化銅を溶かして100円玉をピカピカにするのですから、残留しているのは明白です。しかし、原材料表示はされていないため、消費者には使用の有無が判断できません。
酢酸(氷酢酸、酢酸ナトリウム)の毒性は、刺激性や腐食性、中枢神経への作用だけではありません。ラットに1日2.4グラム経口投与すると、3~5日後に体重が減り、四肢に水疱が生じ鼻を赤くして死亡しました。また、ラットに10%の酢酸溶液を3ミリグラム、90日間与えたところ、ヘモグロビン濃度(赤血球の赤い濃度)と赤血球の減少が見られたとの報告があります。
『科学電話相談』での子どもの素朴な相談が、しょう油の中身の危険な実態を浮き彫りにしてくれました。しょう油には、劇物の酢酸だけではなく、発がん性の指摘のある着色料のカラメル色素3型および4型、甘味料のサッカリンナトリウム、アセスルファムカリウム、保存料の安息香酸ナトリウムなどが使用されているものが多くあります。これらは使用されていれば原材料表示されていますから、しょう油を購入する際には、しっかりと確認することが重要です。
(文=郡司和夫/食品ジャーナリスト)