前述のような身体障害者へのリハビリ同様に、精神障害者にも、定期的な集団または個別のカウンセリングやコーチング等によるやる気の維持こそが、勤務時間を減らすことよりも必要なのかもしれないと考えます。
障害者の雇用継続の原動力
3つめの理由は、雇用の継続は障害者でもそうでなくても、その個人のやる気と個人への総合的評価によるものだからです。障害者社員の前向きなやる気、企業側からの社員へのポジティブな評価、この2つが揃って、チーム(会社)としての継続的なサポートの歯車は回り続けます。それこそが、障害者の雇用継続の原動力だと私は考えます。
最近、クライアント企業のある部署が閉鎖されることになりました。その部署に勤める障害者雇用の男性は、部署の閉鎖が社内にアナウンスされると同時に、複数の他部署から異動の依頼があったそうです。これは彼の普段の仕事ぶりが評価されての雇用の継続なのです。
また、他社において私が30代の身体障がいを持つ女性との面談の中でいただいたコメントを紹介します。
「私はこの会社には、学生時代に受けていたような“特別扱い”がないことが一番気に入っています。ほかの社員と同じように評価やフィードバックを受け、仕事がきついときもあります。車椅子用に自動ドアやトイレがあることには感謝しています。しかし、社内にいると、みんな普通に接してくれます。学生時代のように自分が障害者であることを自覚しません。それが一番気に入っています」
このような環境で働く彼女の仕事のやる気は、誰でも容易に想像できると思います。
今回の特例処置が施行されれば、企業にとっては1人分の障害者雇用ポイントを稼ぎやすくなりますから、確かに精神障害者への雇用のハードルは下がるでしょう。しかし、これが本当に精神障害者雇用の継続に結びつくかは別の問題だと思います。
産業医としては、勤務時間内に、定期的なリハビリ(身体機能訓練等)、通院、心理療法(カウンセリングやコーチング)、そのほかにも特別研修などのプログラムに積極的に通ってもらう。その時間や場合によっては費用も提供することを推奨推進してくれるような特例を期待したいと思います。
(文=武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事)
【引用】
12月24日付朝日新聞デジタル記事『精神障害者、雇いやすくする特例措置 厚労省、来春から』