NGT山口真帆暴行告発は、なぜ最悪の展開になったのか?山口の“敵になった”運営元
この事態を避けるためには、当事者が正しい情報を発信する態度を示すことです。この態度が信頼されれば、むやみに憶測をすることはなくなります。世間が騒ぎそうな要素が満載の事件でしたので、騒ぎ始める前に運営元が記者会見を開いたり、声明を発表するなどの対応をしていれば、事態はまったく違ったでしょう。仮に山口さんの告発の直後にでもこのように対応できていれば、事態の展開は違ったと思われます。
自分たちの責任を重く受け止める姿勢を示すこと
次に管理監督の責任を重く受け止めて適切な対応を行うよう善処する姿勢を示す必要がありました。「任せて安心だ」という信頼感を与えられれば、多少の不手際があっても、ハロー効果(ひとつの情報が印象の全般を支配する現象)で共感を得られて信頼されるものです。
しかし、公演の最中に山口さんが突然「お騒がせして……」と謝罪してしまったことで、逆に運営元に無責任なイメージが印象付けられてしまいました。すでに騒ぎになっているあとですので、事態を軽く終わらせようとする態度にも疑問が持たれてしまいます。謝罪するのであれば、公演とは別の機会に責任者を中心に行うべきでした。そこに山口さんも同席して、被害者である山口さんの安全と人権が護られているというイメージを示せれば、まだハロー効果を活用できるチャンスがあったかもしれません。
山口さん自分がそれなりに護られていると納得したから騒動を謝罪したものと思われます。ここに至るまでの努力を考えると、非常にもったいない謝罪方法だったといえるでしょう。
想定外の出来事が起こっても、否認せずに事実と責任を受け止めること
最後に、何よりも大切なことをご紹介しましょう。それは、何が起こっても事実と責任を受け止める姿勢です。人は想定外の危機的な出来事が起こると、無意識的に否認したくなります。「何かの間違いだ……」と。
また、仮に事実を受け止めることができたとしても、問題や責任を小さくしようとしがちです。「想定外なのだから、自分のせいではない」と。
どちらの姿勢も、共感も信頼も得られない姿勢です。責任者というのは、想定外の出来事に対しても責任を持って行動するから責任者なのです。想定外で事態をつかみきれなければ真相解明の努力を示す。適切な対処を見いだしにくければ、まずはダメージを受けた方のケアを優先しつつ対処法を探す。このような姿勢なくして責任者としては納得されません。
このたびは第三者委員会に対応を任せると報道されています。必ずしも悪い対応ではなかったかもしれませんが、主体的に責任を取る姿勢が疑われているなかでしたので、この対応にも批判が集まっています。
組織には多くの人が集まっているので、メンバーの想定外の行為や出来事は起こり得るものです。管理監督の責任者は「想定外を想定」して心の準備を怠らないように心がけたいですね。この負担は莫大なものだとお察ししますが、全国の管理監督責任者の方々は、ぜひがんばってください。
(文=杉山崇/神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授、臨床心理士)