タレントの堀ちえみさんが、口腔がん(左舌扁平上皮がん)にかかっていることを公表した。堀さんのがんはステージ4で、首のリンパへ移転しており、今月には舌を半分切る12時間におよぶ手術に挑むと明かしているが、舌がんは発症率が低いこともあり、その実態はあまり知られていない。
舌がんという病気について、血液内科医で元東京大学医科学研究所特任教授の特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏に解説してもらった。
上昌広氏の解説
堀さんは私の2歳年上。私が中学1年生のときにホリプロタレントスカウトキャラバンで優勝して芸能界入り。テレビドラマ『スチュワーデス物語』(TBS系/1983~84年放送)などで人気を博した。同じ関西出身ということもあり、親近感を抱いていた。他人事とは思えない。
彼女のブログによれば、リンパ節転移があり、ステージは4(もっとも進んだ状態)だという。このことを聞いた知人からは「なぜ、こんなに診断が遅れたのか」と質問を受けた。
私は堀さんのケースは、彼女のブログに書かれているように、さまざまな要因が重なったと考えている。彼女が最初に舌の裏側の口内炎に気づいたのは昨年の夏だという。なかなか治らないため、11月にかかりつけの歯科医を受診した。レーザー治療などを受けるが、ほどなく舌の左の側面にも腫瘤ができる。約3カ月で進行したことになる。その後、リンパ節にも転移する。舌がんは発見が遅れると、すぐに病気が進んでしまう。
もう一つの問題は、舌がんが珍しいがんであり、一方、口内炎はありふれているため、一般人はもちろん、専門外の医師は舌がんをあまり疑わないことだ。堀さんの主治医は、リウマチの治療薬の副作用で口内炎ができやすいため、休薬して経過をみましょうと判断したとのことである。
筆者もかつて似たような状況で舌がんを見落としたことがある。その患者は骨髄移植を受けた白血病患者だった。白血病は治ったが、骨髄移植後に移植片対宿主病(GVHD)という免疫反応が起こり、治療に苦慮していた。その治療の最中に舌に違和感を訴え、口内炎ができたが、筆者はGVHDの一症状と当初考えた。口内炎はGVHDの症状の一つだからだ。実は舌がんだった。この患者は幸い口腔外科にも受診していたので舌がんと診断され、手術を受けた。今もお元気だ。