いくら子とはいえ、親の通帳で勝手にお金を下ろせない。親と話ができない状況に備えて暗証番号を教えてもらうか、それが難しければ暗証番号をどこかに書いておいてもらっておけば安心だ。太田氏によれば、子名義の新しい口座をつくって、親のお金を「預かり金」としてそこに移しておくのもひとつの方法だという。
「困ったら地域包括支援センターへ」、それだけ覚えておけばOK
また、現在介護に関するさまざまな公的サービスがあるのだが、それをあらかじめ勉強しておく必要はあるのだろうか。
「今一生懸命覚えても、10年後には制度内容が変わっている可能性もありますし、親が元気なうちは細かい勉強をする必要はないでしょう。各自治体には地域包括支援センターという介護に関する窓口があるので、困ったらここに早めに相談に行き、社会資源をトコトン使って介護する、ということだけ覚えておけば十分です」(同)
ここまでの話を総括すると、難しいことは一切ないので、親が元気なうちにぜひ以上のことだけは確認しておきたいものだ。
さて、年号も令和になり、今後ますます超高齢社会が進行する。そのなかで、“令和介護”にも変化が訪れるのか。
「介護保険制度は2000年から施行されていますが、当時よりも高齢者はさらに増えて国の財政事情は苦しくなっており、要支援の審査は通りづらく、審査が通っても負担額は今までよりも上がっています。2015年度の制度変更で、特養(特別養護老人ホーム)への支払いが月々5万円だったのが10万円になった人もいました。加えて、若い人が将来もらえる年金も条件はますます厳しくなる。言い方は悪いですが、医療も進歩して高齢者にとってみればなかなか死なせてもらえない人生100年時代も迫っています。そうなれば介護期間は30年にも及ぶようなケースも。自分の老後も心配なのに、その期間をずっと自分のお金で親の面倒を見るのは自滅を招くだけです」(同)
だからこそ無理をして親の面倒を見るべきではなく、直接的な介護そのものはプロに任せるべきというのが太田氏の意見だ。
「世の中には子のいない高齢者もたくさんいますが、その人たちが社会から放置されて亡くなっているわけではありません。それは裏を返すと、子が何もしなくてもなんとかなるということです。複雑でややこしいですが、要介護者を支えてくれる介護関連の制度はたくさんあります。あくまで“介護をマネジメントする”という姿勢で介護と向き合えば、自身の生活を変えなくてもすむのではないでしょうか」(同)
“介護生活”と書くと、介護に人生を捧げているニュアンスになる。そうではなく、制度を有効活用して介護からある程度距離を置くことで、かかわる人々が不幸にならず、幸せでいられる未来をつくることができるはずだ。
(取材・文=A4studio)