極上ローストビーフ、自宅で安く&手間なしでつくれる!硬い米国肉が和牛並みに!
肉の種類はなんでも構いません。硬いアメリカンビーフでも、和牛に劣らない柔らかい肉になります。ただし、極上のローストビーフを食べたい場合は、赤身の割合が高くキメが細かい、かつ適度に脂の乗った和牛の肩かランプがオススメです。
まず、肉を棒状に切っておきます。このときに肉の繊維に対して垂直に切り分けます。組織の方向を揃えておくと、仕上がりがきれいで歯切れもまったく違います。精肉店で「繊維が横になるよう棒状に切ってほしい」などと注文するとよいでしょう。
次に、常温で軽く溶かしたバターを肉に塗り、真空パックします。空気を抜くには真空包装機があると便利ですが、冷蔵用バッグ(ジッパー部分が2重になっているタイプ)でも代用できます。肉をバッグに入れたら、可能な限り空気を抜いてジッパーを閉じ、わずかに空気口を開けて大きめのボウルなどに水を入れ、そこに沈めながら残りの空気を抜いていきます。水圧でビニールが肉に押し当てられていくので、水が入らないように気をつけながら、空気を抜いてジッパーを閉じます。
最後は、恒温槽で摂氏60度に保ち、6時間ほど放置しましょう。温度は肉によって微妙に変えたほうがいいのですが、とりあえず摂氏60度にしておけば間違いありません。
摂氏60度というのは、ほとんどの雑菌が生存できない温度です。また、アクトミオシンが形成されにくい温度で、かつ他のタンパク質の分解変性が進みます。特に繊維状タンパク質がゆっくりとアミノ酸に分解されます。そうすると、口の中でとろけるような口当たりで、さらに極上のかみ応えになるのです。
ソースの決め手はラーメンスープ?
ついでに、おいしい肉に合う、おいしいソースをつくりましょう。
高級レストランの肉料理では、オーブンで焼いた肉を複数の香味野菜と共に煮込み、それらから手間暇かけて抽出したフォン(出汁)をベースにソースがつくられています。しかし、それを家庭で実践するのはとても困難です。
そこで、簡単にレストランの味に近づくために工夫いたします。
ソースのポイントは、ハーブの香りに酸味と複雑なスパイスと肉の味、ほのかな甘味、そして絡みつく脂味です。これを成分的に見ていくと、安くて代用可能なものが浮かび上がってきます。
まずは香りですが、これは天然のハーブにかなうものはなく、値段も安いので、本物を使います。特にローズマリーは必須です。ワインの酸味の元は酒石酸ですが、安い赤ワインは含有量が少ないので、酒石酸を別途用意しましょう。ドラッグストアやアマゾンなどのインターネットショップでも購入できます。ほのかな甘味は、グリコールが多く含まれるオイスターソースが最適です。そして複雑な肉やスパイスの味、それを最も内包しているのが、味噌ラーメンのスープの素です。
スーパーマーケットなどで、ラーメンコーナーの片隅にスープの素が売られていることがありますが、調味料として重宝します。ちなみに筆者の家では常に10個ほどストックしているくらいです。特に味噌ラーメンのスープは、味噌が複雑な味わいを演出するのに極めて良い仕事をします。さまざまなアミノ酸が配合されているほか、単品では利用が難しいタンパク加水分解物などの添加物も適量をブレンドされているので、手軽に利用できます。
ただし、そのまま混ぜるだけではマズい肉になってしまうので、味噌ラーメンの味を感じない程度の分量の使用にとどめるのが大事です。
手順としては、フライパンにオリーブオイルとローズマリーを入れて着火します。香りがオリーブオイルに移ったら、ローズマリーは苦みが出てくるので早めに取り除きます。次に赤ワインを入れ、味噌ラーメンスープの素とオイスターソースを混ぜて煮詰めます。味は少し酸味が効いているほうがいいので、酸味が足りないようであれば酒石酸を加えます。
煮詰まってきたら、スーパーで無料で入手できる牛脂とバターを投入して溶かします。ラーメンスープの中に含まれている乳化剤の効果で、細かい温度管理などしなくてもトロみがつきます。あとは冷ませばできあがりです。
ローストビーフと共にどうぞ。
料理は複雑な化学反応の集合、立派な科学です。今回は、ローストビーフとソースをつくりました。今後、このように科学的に料理を紹介していこうかと思いますので、ぜひお付き合いのほどを。
(文=へるどくたークラレ/サイエンスライター)
●へるどくたークラレ
サイエンスライター。不謹慎理系書としてシリーズ累計15万部以上売れている『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス)著者。近著は別名義で『薬局で買うべき薬、買ってはいけない薬』(ディスカヴァートゥエンティワン)、『本当にコワい? 食べものの正体』(すばる舎リンケージ)がベストセラーとなっている。無料のメールマガジン、ニコ生なども配信している。